佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER
コントロール
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2007/08/30 00:00
「お騒がせしましたが、たいしたことではありません」と言って現れた。
残暑きびしいイスタンブールパーク・サーキットで、佐藤琢磨の姿を初めて見たのは試走初日の金曜日。
普段のグランプリでは木曜日にサーキット入りしてチームとミーティング。その後メディアの“囲み取材”を受けるのだが、木曜日に琢磨はイスタンブールのホテルに引きこもりだった。理由は風邪による発熱である。
「夏休みにイギリスに行って帰って来て、火曜日は家族全員風邪ひいて家で寝てました(笑)。水曜日にこっちへ移動したんですが熱が出て、昨日も下がり切らなかったので大事を取って休んでいたんです」
どうやら佐藤琢磨というアスリートは、体調を崩すと発熱するタイプのようだ。
さてこの日、走行初日金曜日は総周回数が42周と不足はなかったが、ポジションは午前17位、午後16位とパッとしなかった。
「前回ハンガリーの最後のスティントでいいペースで走れたのですが、今日走り始めてすぐに感じたのは、他のチームが前進して来てるな、きびしい週末になりそうだな、ということでした」と、琢磨は表情を引き締めた。
タイヤ・セッティング術開眼のヒントをつかんだ前戦ハンガリーから3週間。この間、全チーム等しくテスト禁止の長い夏休みを取ったはずだが、モノ造りやデスクワークは禁止されていない。果たしてスーパーアグリのエンジニアの夏休みの学習効果やいかに。
明けて土曜日午前中のセッションでは残り13分というところでスピンし、グラベルにハマってマシンを降りた。右後輪の空気圧が異常に低かったのが原因という。
午後の予選も支障なく走ったにもかかわらず19位と冴えがなかった。琢磨は「マシンのバランスはいいのですが、全体的にグリップ感がない」と症状を述べるが、原因がタイヤに起因するものであることは間違いない。
決勝はグリッド下位ランナーの常道として1回ストップ作戦を採ったが、スタートの1コーナーでトゥルーリのスピンに巻き込まれ、オープニングラップを最下位でスタンド前に帰って来た時点で上位進出は絶望的となった。1回ピットストップ作戦の成否は、スタートでできるかぎり前に進出して、ライバルを後ろに従えて焦らしながらマイペースで走れるかどうかにあるが、自分が追い上げる展開は“想定外”である。
案の定、最初に履いたハード・タイヤは重いタンク(多量の燃料搭載)に音を上げてすぐに傷み、ピットストップで履き換えたミディアム・タイヤも「しっくり来ないでマシンが曲がりにくく……」18位フィニッシュがやっと。タイヤ・コントロール不足がすべての原因だった。
どうやらスーパーアグリの夏休みの宿題は<よくできました!>とはいかなかったようだ。