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信頼性のコバライネン
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2007/08/23 00:00
8月6日の第11戦ハンガリー・グランプリが終わってから、F1シリーズは3週間の長い夏休みに突入。この間は例外を除いて実走テスト禁止(Bスペックをデビューさせるスパイカーは短距離の試走が許される)。F1チームがやれることはデスクワークしかなかったが、その長い夏休みも終わり、8月24日(金)からいよいよ後半戦の緒戦トルコGPがイスタンブールで始まる。残されたレース数はトルコを含めて6戦。いよいよチャンピオン争いも佳境である。
ハンガリーが終わったところで、ポイントリーダーのハミルトンは2位アロンソに7点差、3位ライコネンに20点差をつけており、この時点でライコネンに自力チャンピオンの目はなくなっていて、王座争いは実質的にマクラーレン・ドライバー同士の戦いとなってしまっている。
ライコネンがチャンピオン争いから大きく後退したのは、無得点のレースが2回もあったからで、チームメイトのマッサも同じく無得点2回。今年ライコネン、マッサがタイトルを獲れないことになったのだとしたら、それはフェラーリの信頼性がマクラーレンよりも劣っていたからに他ならない。
加えてフェラーリらしからぬ“チョンボ”もあった。たとえばハンガリーの予選第2セッションの最終アタックで、マッサのマシンに燃料の入れ忘れが発生。無線で連絡を受けたマッサはピットロードの途中でストップ。メカニックに押されて自チームのピットまで戻り、急ぎ燃料を入れて再度コースイン。チェッカーには間に合ったものの、この間にタイヤが冷え切ってしまってグリップが足りず第3セッションに進めなかった。その結果、ハンガリーは完走したものの無得点。
対してマクラーレンはといえば、ハミルトン、アロンソともリタイアなし。そしてランキング2位とはいえアロンソが凄い。ただひとり全戦得点しているばかりか、おどろくべきことに周回数消化率100%。つまり開幕戦オーストラリアから、第11戦ハンガリーまでの全周回数をすべて走り切った唯一のドライバーなのである。信頼性の観点ではハミルトンをしのいでいるわけで、さすがチャンピオン。今後のハミルトンとの攻防を考える時、この信頼性の高さが大きな武器になる。
信頼性という点で注目すべき存在がもうひとりいる。それはルノーの新人ヘイキ・コバライネンで、彼は周回数消化率でアロンソ、ハミルトンに次ぐ3位なのである。現在ランキング8位で無得点レースが4回もあるが、全戦完走し、総周回数でもアロンソ、ハミルトンに数周しか劣っていない。
昨年のチャンピオン・チームであるルノーは今年、コンストラクターズ・ランキング4位に低迷。しかし、来季の反撃を期するには今季終盤でどこまで戦えるマシンに仕上げられるかがキーになる。そこで辿り着いたレベルが来年のマシンのベンチマークとなる。ただし、マシンのポテンシャルアップに魔法はない。地道に完走を続けてデータベースを充実させることが唯一の王道。その時、コバライネンのコンスタントなレースっぷりがいぶし銀の光を放つことだろう。終盤、チャンピオン争いがもつれてレースに波乱が訪れた時には、コバライネンに表彰台のチャンスが生まれることも考えられる。ルノーはレース達者なチームだ。
“もうひとりのフィンランド人ドライバー”の、トルコからの後半戦を静かに注目したい。