野球クロスロードBACK NUMBER
実は条件が最悪だったトライアウト。
戦力外通告選手たちの、無情の現場。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2009/11/16 13:00
戦力外の男たちは、どんな条件でも言い訳は許されない。
ただ、彼らは戦力外になった身である。ここは、今までのように言い訳が許される場ではない。「思ったより緊張しました。マジで、久しぶりに」と、独特の雰囲気を初めて体感した今岡の言葉がそれを物語っていた。
「バッティングに関してはね、自分でどうこうと言うんじゃなくて、見た方が判断することですから。やることはやったんでね、今日の結果で評価をしてもらいます」
今日の結果で評価――。正直、この日の今岡のプレーはどこか気が抜けていたように思えた。キャッチボールやノックの動きにはキレがなかったし、打撃にしても往年の迫力は感じられなかった。当初は獲得を前向きに検討しながら、それを白紙に戻した広島の評価も分からなくもない。
どのような結果になっても現実を受け入れなければならないが、オリックス・古木克明のように本音をポロリと漏らす選手もいた。
「バッティングでは自分のスイングができたと思います。ただ……守備が。今年1年ですごく自信がついたし楽しくできるようになったんです。守りが課題だと周りから言われていただけに、今回は汚名返上のチャンスだと思っていたんですけど」
プレー環境もそうだが、選手たちにとって不運だったのは、監督がひとりも視察に訪れなかったことだ。'07年は楽天・野村克也、'08年は中日・落合博満が現地に訪れた。現場の最高指揮官の光った眼がそこにあれば、選手だって自然と力が沸いてきただろう。しかも監督はチームの補強ポイントを誰よりも把握している。
今岡、古木、三井、前川……晴天を信じて二次でもう一度!
西武の三井浩二にしてもそうだった。全盛期の力はないとはいえ経験豊富な左投手だ。本人も「力を出すことができた」と言ったが、「左は欲しがる球団が多いのでは?」との問いに対してはいささか懐疑的だった。
「そう言ってくれる人もいるんですけどねぇ……。そればかりはなんとも言えないですよ(苦笑)」
トライアウトは二次まであるが、一般的に一次で声がかからなければ、その後、日本の球団からオファーがくる可能性は限りなく低い、と言われている。現に、今岡や古木、三井をはじめ、「二次は受けない」と答える選手が多かった。なかでも日本での再起を誓う元オリックスの前川勝彦('07年に解雇後、米国へ)は、自らの過去を振り返りながらこう断言したほどだった。
「あの交通事故で初めて自分の甘さに気づきました。もう、甘さはありません。今回がダメなら力不足だと理解します。チャンスはこの1度だけ。二次は受けません」
選手の気迫、悲壮感が驚くほど伝わるトライアウトだった。1回のチャンスに賭けるのは男らしい。だが、今回は条件が悪すぎた。二次トライアウトは25日に神宮球場で行われる。晴天になることを信じ、もう一度、死に物狂いでプレーしてはどうだろうか? 悔いを残さぬためにも……。