バンクーバー五輪 匠たちの挑戦BACK NUMBER
スケート界の“レーザー・レーサー”?
ウエアを巡るハイテク開発競争。
text by
茂木宏子Hiroko Mogi
photograph byKeisuke Koito/PHOTO KISHIMOTO
posted2010/02/13 08:00
競泳水着の最新技術を取り入れたスケートスーツ。
実は、織物のこうした技術革新に一役買っているのが競泳用の水着である。水着の高速化に一定の歯止めをかけようと、昨夏、国際水泳連盟は水着の素材を織物に限定することをルール化したが、それ以来、織物の技術が進化しているというのである。スケートスーツにもこれを利用しない手はない。
空気抵抗が大きい頭部には、伸縮性のあるやわらかいラバー素材を採用した。凹凸で乱流層の剥離を起こして抵抗を削減するのではなく、シワのない滑らかな曲面にすることで抵抗を削減したのである。
「凹凸は一定の速度に達すれば低抵抗になるんですが、それに達するまではむしろ抵抗を大きくしてしまうんです。その速度が時速何㎞かはまだ正確なデータがないので言えないんですが、スタート直後の加速時は抵抗になることは間違いありません。ぼくらもワールドカップ用につくったスーツの頭部には凹凸をつけていましたが、NRCで風洞実験をやった結果、ラバー素材を使った方が抵抗が小さくなることがわかったんです」
アンダーウエア素材の反発力を滑走中の動きに活用。
こうして抵抗を抑える一方で、選手のエネルギーも最大限に引き出そうと考えた。その結果、行き着いたのが『e-ライナー』と呼ばれるアンダーウエアだ。
「体に適度なコンプレッションを与えて選手自身のエネルギーをサポートしようというウエアで、とくにスタート直後の100mをいかに速く滑るかを考えてつくっています。大腿部には伸縮性の強いパワー素材をスパイラル状に装着していますので、足をグッと蹴り出してから戻すときにパワー素材の反発力が動きをサポートしてくれる。100分の1秒をいかに稼ぐかを考えてつくったものなんです」
織物で低抵抗になったスーツと、滑走中の動きをサポートしてくれるアンダーウエアを身につければ、スケート選手としては最強というわけだ。
高地にあるカルガリーやソルトレイクの高速リンクと違い、海抜0mの低地にあるバンクーバーはスピードの出ないスローなオーバルリンクなので“スローバル”とも呼ばれる。空気抵抗の大きい低地の環境に慣れようと、ウォザースプーンらトップ選手たちはかなり以前からバンクーバーに引っ越して練習を積んできた。
スーツとの相性もいいようで、「今まで着たスーツの中で一番空気抵抗が小さく、“速く滑れるぞ!”というのを実感できる」と選手からの評判も上々だ。板垣自身、'97年からカナダチームのスーツをつくっているが、今回が一番の自信作だという。