ジーコ・ジャパン ドイツへの道BACK NUMBER
第5回:〔国際親善試合イラク戦レポート〕「非常に厳しい内容」がオマーン戦への起爆剤となるか。
text by
木ノ原久美Kumi Kinohara
photograph byKoji Asakura
posted2004/02/13 00:00
力強く、それでいてボール扱いにしなやかさもあり、プレッシャーもしっかりかけて、攻守の切り替えも速い。何より、常に積極的である。……これは日本のことではなく、イラクのことだ。2月12日に東京の国立競技場で行われたイラクとの親善試合は、日本の2−0勝利に終わったものの、相手のよさの方が目立つ試合だった。
日本は、2006年ワールドカップ(W杯)一次予選初戦のオマーン戦を18日(埼玉)に控えてこれが最後のウォームアップ試合だったが、イラクの勢いに気おされたのか、ミスが目立ち、特にバックラインでの危険なミスが多かった。
例えば前半16分、DF坪井が最終ラインからドリブルで上がりかけたところをFWアハマド・アルワンにカットされてGKと1対1になり、シュートを打たれた。後半36分には再びDF坪井が相手の縦パスに詰めきれず、これを受けたFWラザク・モサがDF宮本をフェイントでかわして、ここでもGKと1対1でシュートに。いずれもGK楢崎の好セーブで難を逃れたが、失点してもおかしくない場面だった。
それ以外にも、ミスパスやプレー判断が遅くて相手にボールを獲られて攻め込まれる場面が目立ち、カウンターでDF三都主が攻めあがったあとのスペースや、彼がサイドへ張り出してDF宮本との間に広く開いたスペースを突かれるシーンも少なくなかった。
攻撃についても、サイドを意識したプレーは前回のマレーシア戦(7日)の方が見られたかもしれない。ボールは保持しているが、自らのミスを恐れてか、積極的に仕掛けようという意識が薄いように見えた。シュート数もイラクの13に対して日本は11。全体にプレーの精度が低く、ゴールが決まったそれぞれのシーンでは、おそらくこの試合で唯一、プレーの精度と動きの歯車が噛み合った場面だった。
ジーコ監督も「非常に厳しい内容と言わざるを得ない」と認めている。ただ、明らかに自分たちのリズムではなかった苦しい展開で、数少ないチャンスに得点して勝てたのは収穫か。
先制点は後半立ち上がりに相手のマークが緩んだ隙をついて、MF小笠原から三都主へつないで左サイドから攻めてFW柳沢が決めた。ジーコ監督としても、あの手の攻撃の形をもっと造りたいところだろう。
後半38分にFW久保とのワンツーから三都主が決めたゴールでは、久保のパスセンスのよさも出たが、久保にはやはりFWとしてもっとシュートを打って、相手ゴールを脅かして欲しい。ゴールを脅かすプレーがあってこそ、パスも相手の意表を突いて生きることになるのだから。
イラクは後半立ち上がりに日本に先制されて以降は少し動きが落ちたが、それでも積極的に仕掛けようという姿勢は最後まで続いた。ドイツ人のシュタンゲ監督の下でよくまとまり、何よりも喜々としてプレーし、18日のウズベキスタンとのW杯一次予選初戦を控えて、この試合を有効に使おうという真剣さが見られた。プレスも激しく、おかげでMF山田卓が接触プレーで前半早々に右ひざを負傷して退場となってしまった。中東のタフな相手に彼がどういうプレーをするか見られず、残念だった。
イラクには戦禍によるブランクがあり、所属クラブの都合で今回の試合に来日できなかった主力選手が4~5人いたというから、ベストの状態になれば手強い相手になるのは間違いなさそうだ。W杯最終予選で同組にはなりたくない相手だ。
W杯予選には予選独特のプレッシャーも加わるが、イラク戦後に23人に絞り込まれたメンバーの中で、前回日本が戦った'98年大会予選を経験したのはMF中田英だけ。チーム全員がこのイラク戦を振り返り、オマーン戦までの1週間で修正すべき点を修正して初戦に臨むしかない。頼れるのは自分たちの力だけだ。
ジーコ監督はここまでの準備を振りかえって「全体的には非常に満足している」と話し、「これからはどんな内容でも勝つことが大事になる。苦しい時でも勝ち星を拾える自信はついた。選手もそれは学んでくれていると思う」、と自信を見せている。
18日、日本のW杯予選が始まる。