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花嫁不在のクラシコ。 

text by

鈴井智彦

鈴井智彦Tomohiko Suzui

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photograph byTomohiko Suzui

posted2006/10/31 00:00

花嫁不在のクラシコ。<Number Web> photograph by Tomohiko Suzui

 花嫁のいない結婚式──。

 10月22日のクラシコ(レアル・マドリーvs.バルセロナ戦)を、スペインメディアはこう評した。スペイン人のジョークもたまには冴えている。

 エトーがいないバルサの試合──。派手でもなんでもない。そもそもゴールのお祝いがない。なるほど。結婚式は新郎だけでやるもんじゃない。今回のクラシコで、バルサはそんな寂しい思いをした。そもそも4日前にロンドンで行われたチャンピオンズ・リーグの対チェルシー戦で、すでにわかっていたことだった。グジョンセンやサビオラではバルサの9番になれない。役不足……。

 クラシコでカペッロはとにかくロナウジーニョを消しにかかった。本来ならセンターバックのセルヒオ・ラモスを、右サイドバックに当てて、ロニーの縦へのドリブルを防いだ。昨シーズンのクラシコを振り返れば、一番やっかいなのがロナウジーニョであるのは明らかだ。しかも、ライン際を破られると一気に最悪のケースまでいかれてしまう。だから、ロナウジーニョをグラウンドの中央へと誘い込んだ。縦を切って、内側へとドリブルさせる。ボールを奪われるごとにロナウジーニョも途中から気づいたに違いない。中央の壁を崩さないと、ゴールは生まれない。しかし、ピッチの中央で待ち構えていたのは、エメルソンだった。

 「試合前にロナウジーニョと話したんだ。今日は何もさせないよ、と。実際、そうなったんですけどね」

 見た目は老けているが、ロベルト・カルロスより3つも若いエメルソンの仕事は、ロナウジーニョ狩りだった。カペッロがもっとも信頼しているMFなのは、数字や実績からも伺える。

 1999年、ローマの監督に就任して平凡な1シーズンを過ごしたカペッロは、レバークーゼンからいの一番にエメルソンを引き抜いた。翌シーズン、スクデット。04−05シーズン、ユベントスの指揮官になったときも、肌身離さず、エメルソンを連れて行った。またも、スクデット。大好きなのだ。彼なくして、カペッロのフットボールは成り立たない。GKカシージャスの次に出場時間が多いのがエメルソンでもある。そのくらい、好きなのだ。

 ちなみに、ライカールトはというと当たり前にGKバルデスが最多出場時間。次いでロナウジーニョ、デコだ。なんとなく、わかる。ロナウジーニョなくしてバルサは語れないから。

 カペッロとライカールト。すなわち、エメルソン対ロナウジーニョ。ピッチ中央におびき寄せられて、エメルソンに狩られるロナウジーニョ。そう、ロナウジーニョが消えたら、バルサはバルサでなくなった。

 試合後の記者会見。ライカールトの開口一番はこんな感じだ。

 「チャンスをものにできなかったのが痛い。それが勝敗をわけた。1点奪われてからの反撃はよかったのだけれど。ラウールのゴールは早すぎた……なんたらかんたら」

 前半2分、セルヒオ・ラモスのクロスからラウールがヘッドで先制点を叩き込んだ。セルヒオ・ラモスにあっさりボールをあげさせたことを指揮官は悔やんだが、それよりも、あのボールにあんな対応をしたテュラムに驚いた。アンタ、ほんとにあのリリアン・テュラムかい、と。マークがゆるいどころか、ボールに対してかぶってしまった罪はでかい。34歳のベテランでも、やはりクラシコの空気に飲み込まれていたのだろうか。

 それでも、ライカールトがこぼしたように同点のチャンスもあった。ロナウジーニョが消えても、メッシがひとり気を吐いた。しかし、この夜のカンナバーロはパーフェクトだった。彼を崩すのは容易なことではないのはわかっていても、最後はメッシの個人技に頼らざるを得なかった。だから、エトーが恋しくなった。

 あと1カ月もすれば、冬の移籍マーケットが解禁する。バルサがアタッカーの補給に動いてもおかしくはないだろう。サビオラが再びベンチから外れるのは心苦しいけども。もしかするともしかして、アドリアーノなんて噂もある。インテルでは絶不調。休暇を与えられ、シーズン中にブラジルでのバケーション。しかも、ビーチでギャルと撮影した写真が新聞に売られた。そこまでは心身のリラックスだからかまわないのだが、手にはタバコが煙を吐いていたもんだから困ったもんだ、と。インテルから出るのも時間の問題かもしれない。

 結婚式場に現れた花嫁が、エトーじゃなく、アドリアーノだったら?それも悪くない。

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