北京をつかめ 女子バレーボールBACK NUMBER
Vol.4 高橋みゆき 快感を積み上げて
text by
宮崎恵理Eri Miyazaki
photograph byToshiya Kondo
posted2007/11/06 00:00
11月2日に開幕したバレーボールのワールドカップ。来年の北京オリンピックの出場予選はここからスタートする。出場12カ国が総当たりで試合を行い、上位3チームには北京への切符が与えられる。だから、毎年のように行なわれる世界大会の中でも、出場国のワールドカップへの意気込みは特別だ。目の色が、違うのである。
開幕戦のドミニカ共和国をストレートで降した日本は、大会2日目に韓国と対戦した。1セット目を25ー23で先取したものの、2セット目は韓国に奪われた。そして、迎えた3セット目。高橋みゆきの、レフトから放つ得意のストレートが、大きくラインを越えた。
今や、データバレーは世界の常識だ。高橋はロシアなどの高いブロックに対しても、ブロッカーの腕に当ててボールを外側に出し、確実にブロックアウトを決める。それは、高橋が持つ、世界に誇る武器なのだ。韓国のブロッカーは、ブロックジャンプした後に腕を引っ込めた。ブロックアウトを狙ったボールは、当るはずの障壁を失って、大きくコートの外に出たのだった。高橋のブロックアウトを警戒した韓国が、ブロックを敢えて下げるというとっぴな作戦に出たのである。
シン(高橋)の、鼻腔が、フンと大きく開く。追いつめられた時に見せる表情が、会場のオーロラビジョンに映し出された。
「上等じゃないの!」
韓国のブロックの出方を見極めた高橋は、その後、今度は、下げたブロッカーの腕の上から、何本ものスパイクをストレートコースに打ち込んだ。あわててブロックがつくと、空中でタイミングを見計らい、2人のブロッカーの間を抜いてクロスへも打ち込む。高橋の強打はとどまるところを知らず、大事な局面でポイントを挙げ、3セット目のセットポイントを高橋のスパイクで締めくくった。そうして、日本は勢いを増し、3、4セットを連取して3-1で韓国を退けたのだった。
小学1年の頃から、バレーボール指導者の父とともに体育館に通ってボールを追いかけていた高橋には、忘れられない1本がある。それは、小学生の頃に出場した公式戦でのこと。何気なく放った高橋のフェイントが相手チームのチャンスボールになり、そのまま試合を落としたのだった。
「何も考えない弱気な軟攻だけは、絶対にやらない」
この1本のフェイントが、小学生だった高橋の心に、深く刻まれた教訓となった。だから、高橋は、徹底してブロックを見る。ブロックを見極めて、空中で姿勢を変え、手首をひねる方向を変えて、強打を放つ。ブロックの間を抜く時も、ブロックアウトを取る時も、高橋の矢のようなボールが、対戦チームを翻弄する。逃げない。高橋がフェイントやプッシュを繰り出すのは、それが効果的だと判断した時だけである。
スパイクに対する研ぎすまされたテクニックとは別に、高橋は、自分のプレーの調子を、サーブレシーブで判断する。どんな態勢で受けても、ボールが竹下の両手の中に吸い込まれるように入っていった時、“快感”を感じるのだという。スパイクやジャンプサーブに比べれば、サーブレシーブはプレーとしては、得意ではないと語る。だからこそ、徹底的に練習を積み、一つでも多くの“快感”を積み上げて実践に臨むのである。
韓国戦で、高橋は24本のサーブレシーブを受けたが、ミスは1本もなし。18本のAキャッチを竹下に送り続けて、サーブレシーブ効果率75%という精度の高さを実現した。初戦でストレート勝ちした対ドミニカ共和国戦では、その効果率は50%だった。初戦の後、高橋は「あんなにサーブレシーブを練習したのに!」と、悔しさに地団駄を踏んでいた。それを、翌日の韓国戦では、見事に修正してきたのである。
ジャパンの核となる高橋に対して、各国とも精密なスカウティングデータを分析してのぞんでくる。北京へのチケットがかかったワールドカップでは、韓国のように、これまでに見たこともないような作戦が展開されることもあるだろうし、前後左右にゆさぶりをかけてくる高度なサーブで高橋を狙い撃ちすることも、自明の理だ。しかし、高橋はゲーム中に難局を打破していく負けじ魂をもっているのだ。
ワールドカップから、来年の北京まで。強豪のテクニックの向上に伴って、高橋のパフォーマンスも上がっていくだろう。全日本の中核として、進化を続ける高橋に注目したい。