スポーツの正しい見方BACK NUMBER
巨人を私物化するYOMIURIの勘違い。
text by
海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa
photograph byKoji Asakura
posted2005/07/19 00:00
ジャイアンツのビジター用のユニフォームの胸の文字が、TOKYOからYOMIURIに変わったのは何年前だったろう。
4、5年前だったと記憶しているが、それに対して、ジャイアンツの選手では松井秀喜がただ一人、なぜそんなことをするのかわからないと異議を唱えた。いま彼はヤンキースにいるが、そういうことも彼がジャイアンツを去る原因のひとつになったのだろう。
ジャイアンツファンの中にも、彼と同じような違和感を覚えた人が大勢いたであろうことは想像に難くない。なぜなら、彼らが好きでたまらなかったのは、読売ではなく巨人だったからだ。ところが、とつぜん巨人が読売という正体をあらわし、おまえらが応援するのは巨人ではなく読売なのだと強要されることになったのである。
そんなバカなという人もいるかもしれないが、ジャイアンツファンならこの心理はわかるはずである。たとえば、ぼくはある時期まで熱心なジャイアンツファンだったが、子供のころはジャイアンツが読売のものだということを知らなかった。ユニフォームの胸にはTOKYOとだけあって、阪神や大洋や西鉄や南海といった会社名ははいってなかったし、新聞も巨人という子供には意味不明の名称で呼んでいたからだ。それで、ジャイアンツというのは特定の企業とは関係ない一種特別な球団なのだと思い、そのまま大人になったのである。そして、正体を知ったときにはもうどうにもならなくなっていたのだった。ある意味では、Jリーグの地域密着という思想を先取りしていたといってもいい。
だが、ユニフォームの胸にYOMIURIと書かれては、巨人が読売のものだということを知らないふりをしているわけにはいかなくなる。まして彼らは、渡辺恒雄という人物がオーナーになって以来、ことあるごとに読売を強調して、ジャイアンツは巨人などという漠然とした存在ではなく、読売のものだということを主張しつづけてきたのである。そしてそれは、ジャイアンツ人気の低迷や視聴率低下がとりざたされるようになった時期とよく一致している。おそらく、多くの人がジャイアンツではなく読売ファンになれといわれて嫌気がさしたのである。
ジャイアンツは今年からビジター用の胸の文字を、YOMIURIからチームロゴのYGに変えた。やっと彼らも近年の方針の誤りに気がついたかと思っていたが、そうではなかったらしい。
例の7月3日のことだ。去年の3月に脳梗塞で倒れた長嶋茂雄氏にまだ不自由なからだで東京ドームを訪れさせ、「顔見せ興行」とやらをおこなわせたのである。
「顔見せ興行」といったのは日本テレビの氏家斉一郎議長という人物だが、興行には必ず興行主が控えている。むろん、それは日本テレビを含む読売新聞グループで、長嶋氏と同席した渡辺恒雄氏や滝鼻卓雄氏といった読売新聞首脳の面々がそれをよく物語っていた。
この興行は成功した。6月のジャイアンツ戦の平均視聴率は過去最低の10.1%で、23試合のうち11試合が一桁だったそうだが、7月3日の試合は13.5%で、長嶋氏が球場に姿を見せていたときのVTRシーンは16.9%を記録したらしいのである。
しかし、そんな一時的な成功にどんな意味があるというのだろう。ぼくは失ったもののほうがずっと大きいと思っている。なぜなら、長嶋はかつてジャイアンツがみんなのジャイアンツだったように、みんなの長嶋だった。ところが、読売はこんどのことで、ジャイアンツと同じように長嶋氏のことも読売の長嶋にしてしまったのである。読売ではなく巨人のだったから、そして巨人の長嶋だったから圧倒的な人気を得ることができたのに、どうしてファン層をわざわざ限定するようなこういうバカなことをするのだろう。ぼくにはまったくわからない。