スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
GMの思惑と三角まくり。
~ミッドシーズン・トレードの帰趨~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2009/08/08 08:00
フィリーズに移籍したクリフ・リー。昨季の成績は22勝3敗、防御率2.54で、いずれもリーグトップだった
毎年のことながら、7月が終わりに近づくと大リーグの世界はざわざわしはじめる。いわゆる「ミッドシーズン・トレード」が東部時間の7月31日午後4時に締め切られるからだ。で、今年もその日がやってきた。
2009年の夏、話題の焦点にいたのはブルージェイズのロイ・ハラデイだった。彼を取った球団はペナントにぐっと近づくにちがいない。今季サイ・ヤング賞の最有力候補だけに、私も含めてそう観測する人は随分いた。
トレードの目玉、サイ・ヤング賞最有力候補のハラデイは残留に。
が、結論からいうと、ハラデイはブルージェイズに残った。最も有力な移籍先と見られていたフィリーズが、若手の有望株カイル・ドレイベック投手との交換を渋ったためだ。
ま、当然の決断だろう。とくに最近のフィリーズは、長期的な眼で見た若手の育成を大切にしている。それに、いまのペースを保てば、ナ・リーグ東地区の制覇はまずまちがいない。3年先をにらめば、ハラデイを強奪する理由はなかった。
フィリーズが取ったのはクリフ・リーだった。インディアンズにいたリーは2008年のサイ・ヤング賞投手だ。今季前半戦はいまひとつ調子の波に乗れなかったが、フィリーズ投手陣に若手が多いことを思うと、彼の熟練した投球術は価値が高い。
ただこうなると、フィリーズの先発陣は左腕が4枚になる。ポストシーズンを見据えると、これはちょっと気にかかる点だ。なかでも、アルバート・プーホルズやマット・ホリデイ(アスレティックスから7月下旬に獲得)といった右の強打者をそろえたカーディナルスには手を焼かされるのではないか。
ア・リーグ中部地区のデッドヒートから目が離せない。
バランスでいうと、より効果的だったのはタイガースの補強だ。タイガースは、マリナーズからジャロッド・ウォシュバーンを獲得した。ご承知のとおり、今季の彼は非常に安定している。8勝6敗の成績は一見地味だが、最近12試合に限ると防御率が1.87。シアトルと同様、投手に有利なデトロイトの球場に移っても好調は維持されるはずだ。ジャスティン・ヴァーランダー、エドウィン・ジャクソンの二枚看板が右投手だけに、左腕ウォシュバーンの制球力は貴重な戦力となるにちがいない。それにしても、マリナーズは商売気を出しすぎたのではないか。
もうひとつ驚かされたのは、ホワイトソックスが締切間際にパドレスからジェイク・ピーヴィを獲得したことだ。足首の故障でいつ投げられるかわからない状態だが、潜在能力は抜群の投手だ。もし回復が順調で8月後半に再起できるようなら、タイガースとツインズを巻き込んだア・リーグ中部地区の三つ巴状態は終盤にまでもつれこむだろう。
MLBもシーズン終盤。GM同士の駆け引きも見所だ。
とまあそんなわけで、今季のミッドシーズン・トレードもけっこう波乱の要因になりそうな気配だ。いま述べたほかにも、レッドソックスがインディアンズの捕手ヴィクター・マルティネスを取り、ドジャースがオリオールズの抑えジョージ・シェリルを獲得した。好調ヤンキースやエンジェルスが洞ケ峠を決め込んで動かなかったことも、吉凶を占う上で興味深いところだ。ここから先の2カ月は、ワイルドカード争いも含めて一喜一憂が一段と激しくなる。三角まくり(第3コーナーからの攻勢)に出るのはどの球団か。思惑が交錯するGMたちの腕比べという点から見ても、ミッドシーズン・トレードはやはり面白い。