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トヨタが勝った!! 

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西山平夫

西山平夫Hirao Nishiyama

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photograph byHiroshi Kaneko

posted2005/03/29 00:00

トヨタが勝った!!<Number Web> photograph by Hiroshi Kaneko

 「エ〜ッ! トヨタってF1やってるんですかァ〜?」

 マレーシアから帰って来てレースの話をするとそんな声が返って来た。嘘のようだが本当の話だある。タクマ、ホンダは知っているが、トヨタがF1に参戦しているのを知ったのはマレーシアでトゥルーリが表彰台に乗ってからというF1ファン(半!?)も少くないようだ。そういう事実を知るとやはり認知には結果を出すことが一番なんだな、とも思う。

 トヨタがついに表彰台に載った。予選2位からスタートしたトゥルーリは、勝ったポールシッター、アロンソによくついて行き、3位以下に逆転されることなくその座を守り切った。ドラマはなかったがそれだけに紛れのないレースであり、実力で2位を勝ち取ったと胸を張っていえる戦いだった。また、チームメイトのラルフも予選5位から出てルノーのフィジケラ、ウイリアムズ勢らと競り合った末に5位。トゥルーリの速さをラルフの強さがバックアップした形だった。

 マレーシアの2週間前、開幕戦のオーストラリアでもトゥルーリは予選2位からスタートして首位を行く勝者フィジケラを追った。しかし1回目ピットイン直前からズルズルと後退し始め、けっきょくは無得点。予選2位は雨模様の予選でたまたま路面状態がよかったがゆえのポジションで、フロック。それが証拠に本場ではその座を守れなかったではないか……というまことしやかな噂が流れた。トゥルーリは右後輪からバイブレーションが発生したためといい、トヨタも車体に付けられたセンサーでその事実を認めているが、こういう場合、説明の言葉は虚しい。

 そうした疑惑を吹き飛ばすマレーシアでのトゥルーリの快走だったわけだが、筆者が感動したのはトヨタの高橋敬三技術コーディネーション担当ディレクターの態度だった。

 高橋エンジニアはトヨタ初参戦から今回の初表彰台までの全53戦をずっと見続けて来た人で、レース週の木・金・土・日と必ず我々ジャーナリストの“囲み”取材に付き合ってくれ、戦績のいい時も悪い時も(悪い時の方が圧倒的に多かったが)笑みを絶やさず、意地悪な質問に淡々と応えてくれたものだが、マレーシアでも「念願の表彰台が実力で勝ち取れて嬉しい」としながらも、その冷静な態度はまったく変わらなかった。

 戦績が悪いと途端に不機嫌になる人もいる。それぞれの性格だからそれはそれでいいけれど、高橋エンジニアの一貫した態度は筆者にとって範とするに足りるものだった。

 高橋エンジニアは「週末の3日間を通じてドライバーもスタッフもミスなく完璧にできた。いいペースで走れました」と勝因を語り、最後に「これまで3年間やって来て去年はふがいない戦績だったのに応援してくれたファンにありがとうと言いたい」と締めた。

 ファンにありがとう……高橋エンジニアはこの一言をずっと言いたかったに違いない。しかし、戦績が伴わなければ言えない言葉なのだ。それを聞いて筆者もホッとした。

 「できれば表彰台の真ん中に立ちたかったが、今日のアロンソは速すぎました」と言って高橋エンジニアは少し残念そうな顔をしたが、いずれその日も来るだろう。トゥルーリか、ラルフか、どちらが表彰台に載っても、彼らの国歌が流れた後に「君が代」が流れる。トヨタは日本のチームなのだから。

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