スポーツの正しい見方BACK NUMBER
どんな悪夢が待っているのか。
text by
海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa
posted2004/01/16 00:00
昨シーズンのサッカーの最大のスペクタクルは、代表チームが久保の2発のゴールで勝った中国とのゲームでも、ロスタイムまで優勝の行方が分からなかった第2ステージ最終節の2つのゲーム、ジュビロ・マリノス戦、アントラーズ・レッズ戦でもなく、天皇杯3回戦のマリノスと市立船橋高のゲームだった。
忘れた者はいないだろう。マリノスが前半に2点を取ってあっさり勝負が決まったかに見えたが、後半に市立船橋が追いつき、延長でも決着がつかずにPK戦にもつれこんだあのゲームである。さいわいマリノスがPK戦を制して最悪の事態だけはまぬがれたが、高校生のチームがJリーグのチャンピオンと120分にわたって互角のゲームをしたのだ。
むろん、市立船橋の果敢な努力には拍手を送らなければならない。しかし、あのスペクタクルの自作自演者は市立船橋の高校生たちではなく、マリノスだった。とにかくマリノスはJリーグのチャンピオン(日本で最高のクラブチーム!)で、相手は高校生だったのである。1点リードすれば十分で、あとはボールを回して悠々とあしらってしまうというのが、こうしたカードでの順当ななりゆきだろう。しかし、マリノスは2点リードしてもそれができなかったのだ。
こうしたことが起きた原因に、天皇杯の日程のおかしさを挙げる人がいる。Jリーグはその直前にリーグ戦が終了し、いうなればオフになって契約交渉がおこなわれ、ある者は解雇通告を受ける。天皇杯はそういう選手も参加しておこなわれるのである。それではチームとして最良の状態で戦うのは不可能だというわけだ。おそらくマリノスにもそういう事情があったのだろう。直前にチャンピオンの美酒に酔いしれ、そこから脱けきれなかったということも考えられる。
しかしそれは、多かれ少なかれ、どのチームも同じだった。優勝したジュビロでは柳下監督、準優勝のセレッソでは塚田監督を筆頭に5人の選手の解雇が決まっていたし、準決勝で敗れたアントラーズでも秋田と相馬の解雇が決まっていた。Jリーグのチームで、最良のコンディションとモチベーションで戦ったチームはなかったといっていいのである。大会期間中、アントラーズなどでは、ゲームごとに解雇される秋田と相馬のためにということがいわれたが、しかしそれはやむをえざる精神の発露とでもいうべきもので、もしそういうことがモチベーションを高める妙薬になるなら、毎年誰かを解雇すればいいというおかしなことになる。
たしかに、そういうことを考えると、いまの天皇杯の日程はおかしい。われわれに最良のゲームを提供していないといってもいい。しかしそれだけが本当にあのスペクタクルが現出された原因なのだろうか。もしそれを理由に、高校生にもまともに勝てないようなチームがJリーグのチャンピオンになってしまった事実に頬かぶりをするなら、われわれはどんな悪夢を見せられても文句をいうべきではない。むろん、まもなくはじまるワールドカップのアジア予選のことをいっているので、わが代表チームはそういうレベルになってしまったJリーグの選手で構成されるのである。