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レイザーラモンHGに、2万人総立ち。 

text by

丸井乙生

丸井乙生Itsuki Marui

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photograph byTadahiko Shimazaki

posted2005/12/09 00:00

レイザーラモンHGに、2万人総立ち。<Number Web> photograph by Tadahiko Shimazaki

 真面目な方はここから先、決して読んではいけません。まさか、こんな日がやってくるとは。「ハードゲイ」を売りにするお笑い芸人、レイザーラモンHGの事である。

 レザーのベスト、ショートパンツでスネ毛も省みず、同じくレザー帽にサングラスをかけて腰を超高速で振りながら、お茶の間に向けて「フォー」と叫ぶ。明治生まれには、確実に受け入れがたいキャラクターだったろう。記者は腰を振るHGを初めてテレビで見た時、「万歩計」という言葉が脳裏をよぎったが、人気はうなぎ登り。テレビ各局各番組に出まくり、細木数子と対決しても腰を振り続けるという勇気ある行動でキャラクターを貫いた。11月3日には大河ドラマ型プロレスイベント「ハッスルマニア」でプロレスデビューを果たし、ついに「フォー」は今年の流行語大賞のトップ10入りを飾った。

 その陰で、迷惑を被った人も多かっただろう。すっかりHGのテーマ曲と化してしまった「GOLDFINGER’99」を歌う郷ひろみも痛し痒し。その原曲を歌っていたリッキー・マーティンは太平洋の向こうで困惑しているかもしれない。さらに、スポーツノンフィクション分野の「Number」でハードゲイについて書く日が来るとは。世も末フォー。

 それでは行きますよ。11月3日のプロレスデビュー戦は、和泉元彌のプロレス参戦と相まって世間の注目を集めた。元彌は4試合目に出場したが、HGは小川直也(小川道場)と組む6人タッグマッチで堂々のメーンイベント。入場テーマ曲「GOLD…」に乗ってステージに登場した瞬間、場内は総立ちとなった。ゴング直後にはインリン・オブ・ジョイトイのプロレスラーバージョン「インリン様」と対峙してムチでめった打ちにされ、早々とハードゲイの本懐を遂げるプレーシーンで試合は幕を開けた。

 芸能人が“お遊び”でプロレスしてるんでしょ、と思っていた人は、ここから驚くべき光景を見ることになる。HGの技のキレ、試合運びは素人ではない。同志社大学のプロレス研究会に所属して「ギブアップ住谷」のリングネームで活動しただけあって、ドロップキックの高さも、豪快な回転技「フランケンシュタイナー」も鮮やか。味方にタッチして出番を待つ間はコーナーポスト脇に倒れ込んでゼイゼイしていたが、リングに舞い戻ると敵に向かって技を繰り出し、敢然と腰を振ることも忘れない。戦う姿は「お笑い芸人のレイザーラモンHG」ではなく、「個性がやたら強烈なプロレスラー」そのものだった。

 技の名称にもHGならではの工夫がみられた。試合前の会見では「得意技はコマラツイスト、69ドライバーです」と発表。さらに、タッグを組んだ大谷晋二郎(ZERO1 MAX)の得意技で、シューズの裏面で相手の顔を削る「顔面ウオッシュ」にちなみ、「PW」という技も開発した。PWが何の略語か気づかなかった方は、一生気づかない方がいいかもしれません。

 最後はインリン様に「HG三角締め」で勝利を収め、会場は再び総立ち。最後は約2万人の観客が一体となってHGとともに「フォー」を決める。イベント大成功の証ではあるが、日本の先行きに不安を覚えるラストシーンでもあった。

 HGの活躍は華々しいが、本当に迷惑を被っている方々がいる。真摯に生きるゲイの人たちだ。そこで、ハードゲイ、そしてハッスルについて造詣の深い方に特別出演を願おう。新宿2丁目にあるスナック「ハッスル」のマスター「キャサリン」です。

──店名が「ハッスル」とは奇遇ですね

 「こっちは開店16年目。向こうがパクったんじゃないの?」

──レイザーラモンHGが人気を博していますが

 「あれがゲイの一般的な姿だと思われるのは心外。ゲイのレザーファッションは80年代からアメリカのニューヨークで流行り、その後に日本に持ち込まれたが、90年代前半で終わっている。だいたい当時でもゲイの正統派はレザーのショートパンツは履かない。長いズボンを履くのが正統派。あれは時代遅れ。さらに、男性を愛する男性の総称をゲイと言うが、ニューハーフは見た目も心も限りなく女性に近い人の事を指す。日本ではおかま=ゲイと言われるが、本来はおかまと言えば、街で女装して立っている娼婦的な意味合いがあるため、おかまと言われることに抵抗を感じるゲイも少なくない」

──歴史に詳しいですね。

 「常識よ!」

──今後、「フォー」という言葉を発することはありますか。

 「あり得ない」

──HGの長所を見いだすとすれば

 「ゲイを明るい芸風、イメージで表現していることだけは共感する。あれで暗い芸風だったら許さない!」

 というわけで、HGの存在は、心の広いゲイの皆さんが許してやっていたからこそ成り立っていることが分かった。ちなみに、スナック「ハッスル」はプロレスとは一切関係なく、「一見さんお断り」の店。行きたい方はお近くのハードじゃないゲイの方に連れて行ってもらうことをお勧めいたします。

 傍若無人のHGにも、殊勝な面がある。ハッスルマニアでは柔道王・小川、玄人好みの名選手・大谷とタッグを結成。プロレスラーを夢見ていたHGにとっては、夢が最高の形で現実となったことになる。試合後には「ハードゲイ、やってて良かったです」と、あのまんまの格好で心温まる一言を漏らした。

 12月24日のハッスル後楽園ホール大会ではプロレス2戦目に臨み、来年以降も出場を熱望されている。他スポーツ界ではあり得ないほど間口の広いプロレス界で、こんなサクセスストーリーがあってもいい──かもしれない。

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