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「セリエAマーケット」がいま熱い。 

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酒巻陽子

酒巻陽子Yoko Sakamaki

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posted2005/04/08 00:00

「セリエAマーケット」がいま熱い。<Number Web> photograph by AFLO

 リーグも終盤に差し掛かったこの時期、例年なら選手の移籍話が新聞紙上を賑わせるが、今シーズンは、クラブの売却がちょっとした話題になっている。名付けて「セリエAマーケット」。現在、アタランタ、カリャリ、リボルノ、パルマ、シエナが、新たなパトロンを求めている。経営不振や地元の無関心、あるいは絶え間ないサポーターの罵りに疲れたことなど、様々な理由により、これらのクラブのオーナーたちは自らのクラブを手放す方針を固めたのである。

 かつてない5クラブの売却話が出るあたり、現在のセリエAのクラブの経営は「難業」と推測されるが、実際はどうなのだろう?

 13年間にわたってカリャリのオーナーだったチェリーノ氏は、「地元の非協力的な姿勢に愛想をつかした」と売却の理由を説明する。同会長が言及する「非協力的な姿勢」とは、サルデーニャ州が寄付金を激減させたことや、新スタジアムの建設にも消極的であることを指す。つまり、サルデーニャで唯一のセリエA所属クラブとして奮闘するカリャリに対し、限られた資金の中で前向きな運営を展開してきたチェリーノ会長の献身ぶりに比べ、州そして地元は極めて冷淡ということだ。

 同様にシエナのデ・ルカ会長も、「地元の支持者は少なく、スタジアムには空席が目立つ」と苦境に置かれた近況を嘆く。2001年にシエナのオーナーとなり、翌シーズンには念願のセリエA昇格を成し遂げたが、結果的には「地域密着」には至らなかった。スタジアムの新設も棚上げされ、デ・ルカ会長は、わずか4シーズンでシエナと決別しようとしている。

 そんなシエナのパトロン候補に、地元出身で元F1レーサーのアレッサンドロ・ナンニーニ氏が浮上した。’97年にレース界を引退したあと、家業の製菓会社を継ぎ、日本でも人気の高い「アレッサンドロ・ナンニーニ・カフェ」のオーナーとしても躍進。地元の信頼も厚く、実父ダニーロ氏がセリエC時代のシエナのオーナーだったことから、市民はナンニーニ氏によるシエナ買収を切望している。シエナに根付く郷土愛(カンパーニャ州出身の実業家より、生粋のシエナ人を好む)が、デ・ルカ会長に売却を促すことになったのだ。

 一方で、以前はセリエA・ジェノアのパトロンで、現在はリボルノの会長を務めるスピネッリ氏のように、セリエAのクラブならではの利点と言える「無償の宣伝」を忘れられず、クラブの売却と買収を繰り返す「ビジネスマン」も存在する。サッカークラブは他の業界に比べ、マスコミという「強力な広告塔」のおかげで露出度が高い。地元紙が毎日のようにクラブの記事を掲載してくれて、宣伝費がほぼゼロで済むのだから、スピネッリ会長が長年オーナーを続けているのもうなずける。そのリボルノの買収に興味を寄せるのが、かつてのフィオレンティーナの会長、チェッキゴーリ氏であることも、「高い露出度を誇る買い物」が実業家にとって格好のビジネスであることを証明している。

  現在のセリエAは、選手の移籍以上に新オーナーの顔ぶれに興味がそそられる。

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