カンポをめぐる狂想曲BACK NUMBER

From:パルマ・デ・マヨルカ(スペイン)「大久保の混乱」 

text by

杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

PROFILE

photograph byShigeki Sugiyama

posted2005/04/14 00:00

From:パルマ・デ・マヨルカ(スペイン)「大久保の混乱」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

リゾート地を控え様々な顔を見せる街マヨルカ。

その街の魅力の中で見た大久保嘉人の歯車は

「予習不足」で噛み合わず空回りしていた。

 どうしようかと悩むのは、チャンピオンズリーグの準々決勝第1戦と第2戦を挟む、ウィークエンドの過ごし方だ。

 どこで国内リーグを見るか。準々決勝第1戦の2試合を観戦するのはリバプールとロンドン。一週間後の第2戦はミュンヘンとトリノ。飛行機に乗る回数を考えれば、ロンドンに残るか、ミュンヘンに先乗りするかのいずれかが妥当な選択になるが、ご存知のように、ロンドンの物価はとても高い。並のレストランでも1人、5千円は覚悟しなければならない。一方のミュンヘンは、寒さが予想される。そこで数日間過ごすことは、季節の巡りに逆行する、楽しげな行為には思えない。ブンデスリーガの日程表を眺めれば、バイエルン対ボルシアMGというかつての黄金カードが目に止まるも、訴求力はいまひとつ低い。

 イタリアはどうかといえば、ミラノ周辺のホテルは見本市のためにとても混んでいて、料金も通常の2倍はする。ここはやはり、リーガ・エスパニョーラのクラシコ(マドリー対バルサ)かな。その線で心構えをしはじめたところ、リーガの日程表に、気になる対戦カードが目に止まった。マヨルカ対サラゴサ。聞けば、マヨルカにはレギュラーFWに故障者がいて、大久保選手の出場は濃厚だという。

 いつかこのコラムでも書いた通り、マヨルカ島には、ここはドイツ領ではないかと一瞬錯覚するほど、ゲルマン人が群れをなして暮らしている。ドイツ各都市とを結ぶフライトの数も多い上に、料金もきわめて安い。次の行き先が、ミュンヘンであることを考えると、ドイツ領っぽいこの島で、大久保選手を観戦する案が、とてもナイスに思えてきた。

 クラシコといっても、今回の場合はやや興味薄だ。そこでマドリーが勝っても、バルサとの勝ち点差は6。残りは7試合しかないので、逆転の目は薄い。本来そう大騒ぎする話ではない。ともにチャンピオンズリーグの舞台から姿を消しているので、旬から外れている気もする。取材申請を出したところで、ハネられる可能性も少なくない。

 木曜日の深夜、パルマ・デ・マヨルカ空港に到着した僕は、タクシーでイリェッタ地区という海岸沿いに立つリゾートホテルを目指した。

 ベランダの下は、プライベートビーチ風の小さな海岸になっていて、ホテルの部屋にはザザザー、ザザザーと、柔らかい波の音が、リフレインでこだまする。ロウでディープ。静謐でありながら、ワクワク感にも富んだとてもナイスな空間で、僕は、読みかけの推理小説を、朝方までかけて一気に読み通した。これで1泊、7千円台とは超お値打ち。後ろ髪を引かれることなど微塵もなしだ。

 横幅約100キロ、縦幅約70キロ。そこに約60万の住人が暮らしている。マヨルカ島はけっして小さな島ではない。市街地に出かければ、島にいることを忘れそうな都会っぽい活気がある。そこそこの品揃えのセレクトショップもいくつかある。しかし天気は島そのものだ。雲の流れはとても速い。晴れていたかと思えば、あたりは突然暗くなり、激しい雨に見舞われる。しばらくするとまた晴れる。4月上旬とはいえ、晴れた時に覗く太陽の光線は強い。光の抜け具合も抜群に良い。海水浴にはまだ早すぎる季節とはいえ、それだけでも十分非日常的だ。その上ここはスペインだ。ドイツ領的であっても、食事の拙さまでは引きずっていない。それなりのところに行けば、大満足な味覚が堪能できる。

 知り合いのマスコミ関係者には、大久保取材にかこつけて、会社に内緒で1ヶ月間、マヨルカ島のアパートメントを借り切ってしまった羨むべき馬鹿もいる。だからこそ、大久保選手には、頑張って欲しいのだが。

 しかし、マヨルカはサラゴサに敗れた。一部残留は絶望的な状況だ。それは来季、大久保選手が、マヨルカでプレーすることが難しくなったことをも意味する。

 歯車が合わず、空回りしていることは、その45分間のプレーだけで一目瞭然だった。僕の見解は一言でいえばこうなる。「予習不足」。予習なしでいきなり試験に臨んでも、好結果がでるはずはない。それは他の日本人選手にも大なり小なり似たような状況だと思う。欧州でプレーしたいのなら、その前に欧州各国のスタイルをキチンと研究しておくことだ。混乱したまま、ハイさようならでは、あまりにもったいない。何も知らずにやってきて良いのは、観光客だけで十分。その感激の総量と、大久保選手の混乱の総量は、イコールの関係にある。僕はそんな結論を得て、マヨルカ島を後にした。

大久保嘉人
マジョルカ

海外サッカーの前後の記事

ページトップ