Column from SpainBACK NUMBER
バルサの運命はエトーが握る。
text by
鈴井智彦Tomohiko Suzui
photograph byTomohiko Suzui
posted2008/02/15 00:00
テネリフェ島には季節を問わず、アフリカからの移民がボートで漂着する。スペインへたどり着けないことがほとんどで、数年前には約3カ月間で1000人以上の遭難者がでたことも。さすがに近年では空海のパトロールを強化したという。
天気が良ければ、アフリカ大陸とイベリア大陸は互いに拝みあうことができる。
アフリカ人の気持ちとはうらはらに、それほどの近距離でありながら、スペインではフランスやイギリスほどアフリカンがプレーしていない。イタリアでも、いっときジェノアにチュニジア人監督が就任すると、5人のチュニジア人がセリエBに集まったものである。いまや雪の振るロシアでアフリカ人がボールを蹴る時代だ。スペインがアフリカ化するのも、時間の問題だろう。すでに、子どもたちは南米色と同じくらいアフリカ色が強くなってきている。
これも、エトーやカメニの影響か。しかし、彼らが虐げられてきたことを忘れてはいけない。
エトーはドリブルをするたび、カメニはキャッチングするたびに、ゴール裏から「ウホウホ」と猿の鳴き声で罵られた。サラゴサでは、あまりにもしつこい「ウホウホ」にエトーは試合を放棄してピッチから去ろうとしたこともある(仲間になだめられてどうにかピッチにとどまった)。
他にも、例をあげれば、ベルナベウで行われたスペイン対イングランドの親善試合やカタルーニャ・サーキットでも、アフリカ系F1ドライバー、ハミルトンをスペイン人は口ぎたなく罵った。
けれども、スペインに来たがっている黒人フットボーラーはたくさんいるわけで。なかでも、ドログバだ。「チェルシーを出て、レアル・マドリーでプレーしたい」といえば、「バルセロナでエトーとコンビを組みたい」などと漏らしているという。
バルサはドログバ獲得に動いていたようだけど、ボージャンがいるから大金をはたいてまですることでもない、というのが世論だ。
むしろ、エトーが心配である。
先日、ガーナで行われたアフリカ選手権では得点王に輝いた。でも、ストライカー魂はふぬけだったのだ。矛盾しているように聞こえるけど、準決勝以降、エトーにストライカーとしての恐さはまったくなかったのである。
準決勝のガーナ戦で、ヌコングの決勝弾を演出するスルーパスを決めたのはエトーだが、90分間あの調子では納得がいかない。9番にファンタジスタは似合わない。どうもエレガントに決めようとする姿が、わびしかった。
明らかにキレ味が落ちている。ガーナで、体重が5キロも減ったというし。決勝戦では、カメニが再三にわたってエジプトのシュートをグッドセーブで弾いても、エースの援護射撃がなくてはカメルーンに勝ち目はなかった。
負傷してバルセロナに戻ってきたエトーは、再びベンチからのスタートになるだろう。さらに心配なのはボージャン、アンリ、メッシの3FW起用にしびれをきらしたエトーが、爆弾のスイッチを押してしまいそうで。昨シーズンのような「やってられるか」的な問題発言を飛ばさないだろうか、と。
となると今シーズン、無冠であれば、ライカールトだけでなく、エトーだって厄介払いとなる。ついでに、ロナウジーニョも爆発してしまったら、それこそバルサは崩れこわれる。ああ、恐ろしい。
ラポルタ会長も、保険をかける。
すでに次期監督候補の代理人に接触しているという。ファン・バステンかモウリーニョか。後者を選べば、ドログバがついてくる可能性もある。だが、ヨハン・クライフが黙っちゃいない。オランダ人の秘蔵っ子よりも、犬猿の仲であるポルトガル人指揮官を選ぶことで、バルサとの関係は崩壊するだろう。
バルサが引き抜くのはジョーカーなのか、ババなのか。最高の切り札となるジョーカーをつかめばいいが、ババだとすると、とんでもない大損をこいてしまうだろう。究極の選択。
運命の引き金はエトーが握っている。