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能見、岩田と阪神エースの座を競う、
大黒柱・安藤優也の存在感。
text by

氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2010/02/08 10:30

2009年は、一度も先発ローテーションから外れることなく投げ続けた安藤。8勝12敗という成績に終わったが、投球内容は決して悪くなかった
昨季不振の安藤に代わる阪神の新エースは現れるか。
しかし、新人選手の動向だけがキャンプの楽しみではない。チームの骨格を指し示す、「エース」や昨年まで固定されていたポジションに「空き」が出れば、その争奪戦もキャンプの面白みとして存在してくる。
そこで、注目しているのが昨シーズン4位に沈んだ阪神の「エース」争いだ。
昨年までは安藤優也がエースといわれ続けてきたが、結局8勝12敗と低迷し、勝負どころの終盤でもヤクルトのエース・石川雅規に投げ負けた。一方で、能見篤史、岩田稔といった中堅の二人が台頭。能見はチーム最多の13勝を挙げたし、岩田は数字こそ残せなかったものの、安定したピッチングと勝負強さはエースに推したいくらいの活躍ぶりだった。
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安藤は昨年の秋季キャンプで罰則として頭を丸めてみせている。
金本との約束だったとはいえ、その姿はエースとしての存在感の失墜を周囲に感じさせるに十分だった。本人はシーズン反省の意味を込めたかったのだろうが、見ている方は一抹の寂しさを覚えた。
その光景は、阪神のエースが誰なのか、白紙に戻したようなものだった。
能見、岩田の活躍は安藤という大黒柱があってこそ。
だが、そこで安藤の存在を簡単に否定して良いのだろうか、とも思うのだ。去年の活躍だけで考えればエースは能見でいいと判断できるが……。
「エース」という看板の交替時期は、果たしてどうあるべきなのだろうか?
野球評論家で元阪神の湯舟敏郎氏が、以前、こんな話をしていた。
「確かに安藤は自分のボールが思うように投げられない中、不本意なシーズンを送ったと思います。しかし、その安藤を除外して考えてよいのかというと、そうでない。昨年に限っていえば、安藤あっての能見・岩田の活躍だったと思いますよ」
昨年の安藤の結果と能見の成長だけで、「エース交替」と簡単にはいかないという。チームの大黒柱という重荷は、まだ活躍し始めたばかりのふたりにとって大きいということなのだ。安藤の存在なくして能見や岩田の活躍はありえなかった、という微妙な指摘といえる。
「藪がFA宣言してメジャーに行った時の井川がそうでした。結果的には勝ち星を重ねられたのですが、内容は苦しいものでした。見ていても、精神的にはつらそうにみえましたからね」
当時は藪が抜けても、下柳は安定していたし、安藤も若さを武器に勢いがあった。JFKも順序は違っていたが、計算が立ちつつある状況だった。