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内村航平の歴史的価値。
~日本選手権で見せた世界最高峰~ 

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小川勝

小川勝Masaru Ogawa

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photograph byJun Tsukida/AFLO

posted2011/06/08 06:00

内村航平の歴史的価値。~日本選手権で見せた世界最高峰~<Number Web> photograph by Jun Tsukida/AFLO

史上6人目の全日本選手権4連覇を成し遂げた内村航平。紆余曲折の末、10月の東京開催が決定した世界選手権では、史上初の個人総合3連覇を目指す

 その時はあまり大きく報道されなくても、歴史的価値から見れば大ニュースという出来事は時々あると思うが、4月23日と24日、全日本体操選手権で見せた内村航平(KONAMI)の演技はまさにそのようなものだった。技の難度、完成度とも文字通り世界の最高峰。特に6種目合計で94.900を出した初日の演技は、ロンドン五輪の個人総合金を期待させるに十分であっただけでなく、体操の歴史における記念碑と言っていいほど、別格の演技だった。

 体操の採点において、10点満点が廃止され、現在のルールになったのは'06年のこと。それ以降も小さなルール変更はあったが、男子の場合、1種目15点(跳馬のみ16点)というのが世界の一流選手の基準になっている。6種目で15点なら合計90点だから、個人総合では90点というのが、世界大会でメダルを争う条件と言っていい。内村が今回記録した94.900は、彼自身の自己ベストだったが、これには特別な事情もある。というのも、日本体操協会は、国際ルールにプラスする形で、国内の試合でのみ適用する採点ルールを採用しているのである。これは日本の弱点克服を目的に採用された制度で、日本選手が苦手にしている技に、国際ルールより0.1から0.2程度、高い点数を与える規則になっている。具体的に説明すると、次のようなものだ。

内村は、現時点ですでに北京五輪金メダリストの楊威に匹敵する。

 体操の採点はDスコア(難度点)とEスコア(出来ばえ点)の合計。Dスコアは、一つ一つの技に得点が設定されていて、フィギュアスケートの技術点に当たるものだ。日本の選手が、難度の高い技に挑戦するインセンティブを与える意味で、いくつかの技に、国際ルールより少し高いボーナス点をプラスすることになっている。

 例えば今回、内村が跳馬で行なった「ヨー2」(韓国のヨー・ホンチュルが開発)という技のDスコアは国際ルールでは7.0、普通は跳馬のスペシャリストが行なう技だ。これが、国内のルールでは7.2になっている。今回の94.900の中には、こうした国内ルールによるプラスアルファの得点が合計0.6点ほど含まれている。したがって世界選手権やオリンピックで同じ演技を実施した場合には94.300程度の得点になると思われる。

 採点ルールは'09年から一部変更されたため単純な比較はできないが、'08年北京五輪の楊威(中国)が金メダルを獲得したとき、合計得点は94.575だった。内村は、現時点ですでに北京五輪の楊威に匹敵するレベルにあると言っていいだろう。楊威の場合、鉄棒がやや苦手で、北京五輪でも15点以下だったが、今回の内村は6種目で15点を超えており、全種目を高いレベルで演技するという意味では、すでに楊威を凌いでいる。以前は苦手にしていたつり輪でも、消耗する力技を増やしたうえに、降り技は2回宙返り2回ひねりで、着地はピタリ。今回は15.200を出している。

【次ページ】 トップクラスの選手が揃う日本でも内村の成績は圧倒的。

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