Column from SpainBACK NUMBER
ロビーニョ移籍の真相。
text by
横井伸幸Nobuyuki Yokoi
photograph byAFLO
posted2008/09/08 00:00
また1人、リーガのタレントがプレミアシップに移籍した。レアル・マドリーのロビーニョだ。
彼は3年前の夏、ブラジルのサントスからレアル・マドリーへやって来た。ロナウジーニョの活躍によりスペインにおけるブラジル人選手の人気が高まっていたところ、当時のルシェンブルゴ監督の強力な引きがあって決まった契約だった。
デビューシーズンはリーガのほぼ全試合に出場して8得点。ブラジル人らしいテクニック、特に軟体動物のような足使いのドリブルは、ロナウジーニョの天下に地団駄を踏んでいたファンを喜ばせたものだ。
期待の2年目は、しかしカペッロ監督の構想から外れ、シーズン前半戦は冷遇された。3年目を迎え、監督が現在のシュスターに替わってからも、チームの直線的なサッカーの中で良いアクセントにはなったが、絶対的なレギュラーポジションを得るには至らなかった。
大まかにいえば、そんな状況が今回の移籍のきっかけである。おそらく代理人に焚き付けられたのだろうが、ロビーニョはレアル・マドリーから抜け出すことを強く望むようになった。そして、7月の時点で移籍希望を公にした。
他方、レアル・マドリーもロビーニョを放出する気でいた。関心を示したチェルシーに売ってクリスティアーノ・ロナウド獲得資金の足しにすることや、金銭+ロビーニョでマンチェスター・ユナイテッドに話を付けることを目論んでいた。「故障」を理由にロビーニョのオリンピック参加を止めた裏にも、そんな事情がある。
ところがレアル・マドリーは結局クリスティアーノ・ロナウドを獲れず、“クラブ主導”の新チーム案は崩壊。シュスターには今季もロビーニョが必要となった。
しかし、覆水盆に返らず。
監督の説得も奏効することなく、ロビーニョは移籍を訴え続け、移籍市場が閉まる当日、ついにマンチェスター・シティ行きとなった。クラブ間で合意した移籍金は4200万ユーロ(約65億8000万円)で、なんと現金払い。行き先がチェルシーでないのは、レアル・マドリーへの最終的なオファー額が少なかったからだ。カルデロン会長によると、ロビーニョとしては、「出ていけるならどこでもよかった」。
さて、この移籍をどうみるか。
ロビーニョは少々不本意ながら願いを叶えた。レアル・マドリーは、選手1人の売却としてはクラブ史上最高の取り引きをまとめた。チェルシー以外の全方面がほぼ満足したのは間違いない。
だが一方で、レアル・マドリーは計画性のなさ、つまりはスポーツディレクターの無能ぶりを露呈している。代替選手の獲得が不可能な段階で、監督が「要る」といっている選手を売らざるを得なくなったのはプランニングの失敗だ。もう少し現実的な補強計画をもって夏に臨んでいたら、こうはならなかったはず。
ロビーニョを放出するつもりなら、誰かとトレードではなく、さっさと出すべきだった。そうして代わりの選手を探せばいい。それがクリスティアーノ・ロナウドであろうとなかろうと。
残すつもりならば、然るべきタイミングで契約延長を申し出るべきだった。ロビーニョの年俸は、レアル・マドリーでは決して高額とはいえない200万ユーロ弱(約3億円)。これを幾らかアップしていたら、ロビーニョの気持ちも収まったかもしれない。「自分を引き留める努力をしなかった」と、彼はクラブを評している。
契約期間中にも拘わらず移籍を訴えたロビーニョを「プロらしくない」となじる声もある。だが、正論に聞こえるのは昨年クラブを去ったロベルト・カルロスのコメントの方だ。
「スポーツディレクターも会長も、クリスティアーノ・ロナウドは獲れると思っている間、ロビーニョのことを忘れていた。あってはならないことだ」
リーガ開幕の3日前、レアル・マドリーはスペイン代表のFWビジャ(バレンシア)とMFカソルラ(ビジャレアル)獲得に動いた。が、タイトルを狙おうというチームが、8月の最終週に主力を売り渡すわけがない。ビジャについては、ロビーニョの移籍決定後、再度100億円近い額をオファーしたが、にべもなく断られた。これもまた計画性のなさを表している。両者とも、もっと早く動いていたら可能性は十分あったのだが。
とりあえず冬の移籍市場が開くまで、シュスターは毎試合、薄氷を踏む思いで戦わねばならない。攻撃陣に故障者が出ないことを祈りながら。