セリエA コンフィデンシャルBACK NUMBER
CLオプション。
text by
酒巻陽子Yoko Sakamaki
photograph byAFLO
posted2008/09/05 00:00
セリエAの夏季移籍市場解禁期間が9月1日をもって終了し、最終日に凄んだインテルは大金をはたいてポルトガルのポルトからMFクアレスマを迎えた。これでリーグ4連覇と欧州チャンピオンズリーグ制覇を狙うだけの陣容が整ったとご満悦の指揮官に対して、今季の戦力補強に総額6000万ユーロの出費を余儀なくされたクラブ幹部は苦笑いを隠さなかった。知将が絶賛するゲームメーカーの引き抜きに要した金額は2460万ユーロ(移籍金1860万ユーロ+MFペレのインテルからポルトへトレード。日本円で約40億4000万円)。さらにインテルが向こう3季、欧州チャンピオンズリーグ本大会(以下CL)で上位進出を果たした場合はその都度ポルト側に報酬(金額は公表されていない)を与える「CLオプション」が添えられ、インテルはこのオプションによって難航した交渉に終止符を打つことができた。
最近セリエAクラブにおける選手移籍交渉でとりわけ耳にする「CLオプション」。移籍金2250万ユーロ(約37億円)でFWロナウジーニョを獲得したACミランも、来季以降3シーズンに及びミランがCL出場した折には、バルセロナに報酬を得る権利「CLオプション」が与えられた。ローマもMFメネズの獲得の際、モナコ側に「CLオプション」を打ち出し交渉をまとめたように、現在では移籍交渉の確固たるスタイルとして認められている感がある。そこで今回は移籍交渉のカギを握る「CLオプション」の秘密に迫った。
「CLオプション」を語る上で先ずはCLの報酬額を明らかにしたい。
CLに出場する32クラブが主催者であるUEFA(ヨーロッパサッカー連盟)から受け取る報酬の内訳は以下のとおりである。出場料としてクラブ側に300万ユーロが与えられる。グループ戦6試合では各マッチごと40万ユーロが与えられ、試合に勝てばその都度60万ユーロが、引き分けの場合は30万ユーロが加算される。要するにグループ戦にて勝ち点を重ねればそれだけクラブの懐も膨み、最低でも540万ユーロは確保できる。これに、平均して1000万ユーロのTV放映権と入場券の売り上げ額が加わる実情を考慮すると、欧州のサッカークラブが「(CLに)参加することに意味がある」と謳うのも納得できる。グループ戦を突破すれば220万ユーロ。8強進出には250万ユーロ、準決勝進出300万ユーロ。大会制覇の際には賞金700万ユーロ。決勝で惜しくも敗れたクラブへは400万ユーロが与えられる仕組みだ。リーグでは調子が上がらないリバプールやACミランがCLになると燃え上がるのも無理もない。
冒頭に挙げた移籍交渉に話を戻すと、大物の獲得にはベースとなる移籍金が高いだけに、手にする金額が満更でもないあぶく銭的なCLでの報酬を移籍金の一部とする「CLオプション」を取り入れるのは買い手にとって好都合である。「戦力資金はUEFA様が工面してくれる」と、CLに参戦するセリエAのクラブは「CLオプション」を移籍交渉の切り札に大物を次々と買いまくっている。
9シーズンぶりに念願のCL出場を決めたフィオレンティーナは今夏、戦力補強に4860万ユーロと破格の金額を費やした。フィオレンティーナの場合、「CLオプション」ではなく目先の報酬、つまり今季のCLでの”それ“に執着した。吝嗇家で知られるデッラ・バッレ名誉会長が今回に限って割高な補強狩りをしたのも、チームの成績次第ではUEFAから多額の報酬を手にすることができるという目算があったからだ。差し当たりグループ戦突破を目指してホームで連勝すればUEFAから(推定2090万ユーロ)マネーが降ってくる見込みだ。
「ミスター・ビオラ」の異名を持つバティストゥータ、華麗な司令塔ルイコスタの残像さえ跡形もなく消えうせたフィオレンティーナにCL8強進出を期待するのは図々しいかもしれない。チームが勝ち進むことで深まる歓喜は、サポーターにとっては待ち焦がれた長い歳月のギャップを埋めてゆくのを感じるだろうし、デッラ・バッレ名誉会長にはマネー到来の目安となることだろう。