MLB Column from USABACK NUMBER
シーズン中盤 トレード戦線の活発化
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byGettyimages/AFLO
posted2004/07/06 00:00
シーズンも半ば近くを終了、トレード戦線が活発化してきた。シーズン途中の大型トレードは日本のファンにはなじみが薄いだろうが、メジャーでは毎シーズンの恒例であり、トレード戦線の駆け引きを見るのも、メジャー・ファンの楽しみの一つとなっている。
最初に成立した大型トレードはロイヤルズのカルロス・ベルトラン中堅手を巡る三角トレードだった。ベルトランはシーズン終了後にFAとなる予定だが、ロイヤルズにはベルトランと契約する財力がないので、逃げられることはわかりきっていた。どうせ、優勝争いから脱落しているのだし、ベルトランと交換に若手有望選手(特に三塁手と捕手)を獲得して将来に向けたチーム再建を始めたい、というのがロイヤルズの思惑だった。しかし、ベルトランを欲しがるチームはたくさんあったものの、ロイヤルズの希望にかなう選手を交換要員とすることのできるチームはなく、トレード交渉は進展しなかった。
ここに登場したのが三角トレードの名人、アスレチクスのビリー・ビーンGMである。アスレチクスは優勝争いに残るためにはどうしてもクローザーを獲得する必要があったし、ロイヤルズが欲しがる若手有望三塁手を放出することも可能だった。「クローザーが欲しい」という強い意思と、「若手有望三塁手」という手ゴマだけで、トレード市場の目玉商品ベルトランを巻き込んだ三角トレードを画策したのである。
ビーンは、「ベルトランを欲しがり、クローザーを放出できるチーム」としてアストロズに白羽の矢を立てて三角トレードに成功、見事に、クローザー、オクタビオ・ドーテルの獲得に成功した。ビーンがトレードの際に発揮する手腕はベストセラー『マネーボール』に詳しく描かれているが、『マネーボール』が株式取引に関わる投資家の間で「教科書」としてベストセラーとなっているのも、市場全体の状況を見極め、その状況を利用することで自分の望む「商品」を獲得するビーンの「ブローカー」としての手腕に読者が感嘆するからに他ならない。
ちなみに、ベルトラン獲得を巡っては、レッドソックスとヤンキースも熱心に動いたが、両チームとも「ブローカー」ビーンの手腕にしてやられる形となった。しかし、ベルトラン獲りに失敗したとはいっても、レッドソックスもヤンキースも、「お互い、相手に取られなくてよかった」と、ほっと胸を撫で下ろしている。
特に、ヤンキースの場合は、「どうせシーズン終了後には、FAで獲得できるのだから」と、鷹揚に構えている。ケニー・ロフトン、バーニー・ウィリアムズと、来シーズンも契約が残っている中堅手はすでに二人もいるのだが、ヤンキースの財力からすれば、「少々の無駄」をしても痛くも痒くもないのである。
アスレチクスのように財力がないチームにとっては、「金に物を言わせれば何でもできる」ヤンキースのやり方は「フェアでない」としか言いようがない。ビーンが「ブローカー」としての手腕を発揮して金をかけずに強いチームを作る様子を描いた『マネーボール』原著の副題が、「フェアでないゲームを勝つアート」となっている理由がおわかりいただけようか。