アテネ五輪コラムBACK NUMBER
【山本ジャパン、最後の挑戦】
決め手は、わずかな差
text by
木ノ原久美Kumi Kinohara
photograph byHiroki Sugimoto/PHOTO KISHIMOTO
posted2004/08/18 00:00
36年ぶりの表彰台をめざしていたサッカーの日本男子五輪代表チームは、夢をかなえることなく、アテネ・オリンピックの舞台から去ることになった。
8月15日にヴォロスで行われたBグループの第二戦で、イタリアに3-2で破れて二敗目を喫し、一次リーグでの敗退が決まった。
ビデオでリプレーを見ているかのようだった。二試合続けて、試合開始早々に失点して前半を1-3で折り返し、後半反撃を見せるが及ばずに1点に泣いた。
「立ち上がり早い時間の失点でゲームプランが崩れた」と山本監督は言った。
FWジラルディーニを中心に両サイドが広く展開するイタリアの3トップに対抗すべく、日本はこれまでの3バックから4バックに変えて、ボランチに今野、阿部のペア、3トップの後ろに小野という布陣で臨んだ。第一戦のような精神的な混乱はなく、それによる失点ではなかったが、2点目以外はミスによる失点。ひとつのプレーのツメの甘さが失点につながるという認識に欠けていた。
2戦目のイタリア戦前半の3失点のうち、1点目と3点目の失点は、左サイドでのクロスの上げ手へのパスを簡単に通してしまっていたことにある。1点目はモレッティへのMF阿部の、3点目はスクッリへのMF駒野のチェックが甘く、プレーを切れなかった。そのままパスを通されて、1点目はスクッリ、3点目はモレッティに精度の高いクロスボールを入れられた。それを1点目はデロッシ、3点目はジラルディーニに決められた。しかも、ジラルディーニへのマークも遅れた。昨シーズンセリエAで23得点をあげたFWを自由にさせてしまっては、ゴールを献上するようなものだ。
2点目は審判がオフサイドを取らなかったという不運なところもあったが、そこで一瞬プレーを止めてしまうのはいただけない。セリエAで百戦錬磨のツワモノを相手にしているというのに。
どこでどういうプレーを相手に許すとどうなるか。因果関係のイメージが頭に入っていれば、体内の危険信号が作動して、それぞれの局面で相手を押さえることができていたはずだ。だが、若手日本代表メンバーには、まだ、その認識は培われていなかったということだろう。
前半20分に阿部のFKが直接ネットを揺らして1-2にした以降、ハーフタイムまでをどう戦うかという考えもチームで統一されていなかった。
是が非でも勝ち点1が欲しい日本としては、無理をして失点することは避けたかったはず。少なくともベンチは前半1点差で折り返せばまずまずと考えて、その指示は出していたという。しかし、ピッチの上の選手たちには徹底されていなかった。那須は「1-2で我慢するというのはなく、チャンスがあれば行こうと」していたと話したという。そして左サイドを破られて3失点目。このクラスの相手にさらに失点をするとどうなるか。
たとえベンチの指示がなくても、選手として危険度を察知するアンテナは持っていなくてはならない。そしてその危険を除去すべく、相手に詰める。その感覚を察知できるかが、常々山本監督が言っている「世界基準」ということだろう。
結果的には、3失点目がモノを言い、第一戦のパラグアイ戦に続いて1点差に泣いた。
二試合続けて試合開始早々に失点するようなスタートのまずさは、このチームがずっと抱えてきた課題だった。五輪最終予選のアラブ首長国連邦(UAE)でのバーレーン戦でも、日本に戻ってきてからのリターンレグの同カードでも出ていたが、今大会でもまたその同じ問題が顔を出した。FW大久保のように90分を通じてファイトできる選手もいて、後半は攻勢をかけてチャンスをつくり、パラグアイ戦は3度、イタリア戦は2度、ゴールを奪い返すことができていただけに、前半の戦い方が悔やまれる。
「立ち上がりもう少し集中できていれば…」と大久保は言った。「イタリアとか、点で合わせるのがうまい。でも、そこまでの差は感じなかった」とも。
わずかな差。その違いを、選手らはそれを肌で感じとることができたか?それをしっかり認識できるのか?
残り1試合。18日のガーナ戦では、これまでの2試合で学んだことを少しでも出して欲しい。