野ボール横丁BACK NUMBER
「奇跡」が起こるはずだった。
~関西学院が甲子園に残したドラマ~
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2009/08/18 12:35
「奇跡」を見逃した――。
大会8日目、第3試合は、そんな軽い喪失感を覚えた試合だった。
7-6、7-6。この日は、第1試合も、第2試合も、いずれも最後の最後までわからない大接戦だった。しかも、第2試合では、長野日大が優勝候補の一角だった天理に逆転勝ちを収めていた。
甲子園は1日に最大で4試合、その上、30分間隔で試合をこなしていかなければならない。そのため、どこか前の試合の残香のようなものが漂っており、投手戦なら投手戦、打撃戦なら打撃戦が続いたりする。
そういう意味では第3試合の試合前は、何かが起こりそうな臭いがぷんぷんとしていた。初戦の戦いを見る限り、もっとも強烈なインパクトを残していた強打のチーム、中京大中京を、70年振り出場の関西学院がうっちゃってしまうのではないか、という。
関西学院のあまりの好調さに「怖さ」を覚えた。
初回に2点を先制された関西学院は、3回に同点に追いつき、5回についに3-2と勝ち越した。
関西学院のピッチャーは、1回途中からリリーフした身長165cmの小兵投手だった。今年の5月から投手を始めたばかりで、本職は捕手の選手だ。この日も、捕手として先発出場し、途中からマウンドに上がっていた。そんな軟投派のピッチャーに対し、筋骨隆々の強打者たちが、つい、打てる気がしてしまうのだろう、ボール球に手を出し、おもしろいように打ち取られていく。
怖い。そう思った。こんなにうまくいっていいいのだろうか、と。
あのときもそうだった。2年前、佐賀北と帝京の準々決勝を観ていたときも、同じような恐怖感に襲われたものだ。9回を終わって3対3。無名の公立校が、逸材ぞろいの怪物のようなチームとがっぷり四つに組んでいた。そして延長13回裏、佐賀北は、2死からの3連打でサヨナラ勝ち。「奇跡」が起きた瞬間だった。
初顔合わせで一発勝負の試合。そこにドラマが生まれる。
甲子園の魅力、言い換えれば、トーナメントの魅力はそこにこそある。特に高校野球の場合、一発勝負ということだけでなく、参加校数が多く、部員の入れ替わりも3年と早いため、大学や社会人のようにデータの蓄積もない。ほとんどの試合が初顔合わせといっていい。それだけにドラマが生まれる確率が高い。
2年前、佐賀北の百崎敏克監督は帝京との試合前、こう語っていた。
「練習試合なら10回やったら10回負ける相手。でも本番になったらわからない」
そんな瞬間に立ち会いたくて、高校野球を見ているところがある。