ジーコ・ジャパン ドイツへの道BACK NUMBER

第11回:アウェーの戦いで得た何か 

text by

木ノ原久美

木ノ原久美Kumi Kinohara

PROFILE

photograph byYUTAKA/AFRO SPORT

posted2004/06/04 00:00

第11回:アウェーの戦いで得た何か<Number Web> photograph by YUTAKA/AFRO SPORT

 「今のチームは諦めない。それが彼らの力になってきた」。

 6月1日、3カ国親善トーナメントの第二戦でイングランドと英国マンチェスターで対戦し、後半8分にMF小野のゴールで同点として1−1で引き分けたあと、ジーコ日本代表監督はこう語った。

 5月30日の大会第一戦のアイスランド戦を1点ビハインドからひっくり返して3−2で勝ったのに続く、粘りと落ち着きだった。

 イングランド戦の前半は立ち上がりから30分ほど、名前負けでもしたのか、相手の勢いと速いテンポの試合に、あたふたと守備に回る以外はなにもできなかった。

 2週間後に始まる欧州選手権への調整試合として日本と対戦したイングランドは、MFジェラード以外は明らかにケガを恐れて球際まで競り合いに来なかったが、おそらく日本選手が想定していたよりも半テンポほど速い動き出しとパスで試合のペースを握り、何度もゴール前まで迫ってきた。

 前半22分にはジェラードが放ったスピードのあるパワフルなミドルシュートを、GK楢崎が抑え損ね、前に大きく弾き返したところを、詰めていたFWオーウェンにあっさり決められて先制された。

 アイスランド戦で小野からのホットラインで2得点を上げたFW久保も、イングランド戦では相手のマークがきつくなり、ハンガリー、チェコ、アイスランドに続く4戦連続ゴールというわけにはいかない。1失点後もイングランドに再三ゴール前に攻め込まれて、あわやというチャンスを作られたが、なんとかボールを見失わずにその危機をしのぐ冷静さと幸運は持ち合わせていた。

 ハーフタイムにジーコ監督から「いつもやっているサッカーをやれば大丈夫」とハッパをかけられて迎えた後半は、イングランドの動きが落ちたこともあって、日本も落ち着いてパス回しができるようになり、相手の穴を突くことに成功。「2列目から入っていくとイングランドのマークが甘くなることは頭にあった」というMF三都主が、MF中村のパスを受けて左サイド深くからゴール前に走りこんできた小野にパスを出し、フェイエノールトのMF選手はこれに右足をピタリと当てて、ゴールネットに蹴り込んだ。

 見事なゴールはイングランドを慌てさせ、スタンドを占めるホームのファンを静まり返らせるのに十分だった。

「小野のシュートもよかったが、その前の仕掛けなど、可能性を感じる」とジーコ監督もご満悦の1ゴール。アイスランド戦では動きが悪かった中村も、この試合では奮闘した。ゴールにつながった三都主へのパスをはじめ、ミドルシュートを積極的に放つなど、少し試合勘を取り戻したようだった。

 同点にした後、故障を抱える久保、玉田の2トップを柳沢、鈴木に代えて日本は縦への早い仕掛けから何回かチャンスを作ったが、相手の懸命な守備とFW選手の質の問題か、ゴールネットを揺らすことはできなかった。

「1点入れられたが、我慢して自分たちのペースに持っていけた」と、チェコ戦から好調なプレーでチームを引っ張っている小野は話した。

 一方、ベッカムは、長いシーズンのあとであり、欧州選手権へ向けての合宿中でコンディションが悪かったといい、「前半30分まではよかったが、その後は疲れてしまった。」とコメント。ベッカムがもう少し調子が上がっていれば、三都主にとっていい挑戦の場になっていたはずだが、逆に三都主が自由を楽しんだ形になっていた。

 日本は2日前のアイスランド戦でFKから2失点し、4月のハンガリー戦に続いてセットプレーでの守備の甘さという課題を修正できずにいることを露呈したが、イングランド戦では、危険なエリアでのファウルの数も減り、後半何回かベッカムに蹴られたFKでもよく集中して対処していた。

 マンチェスターシティ・スタジアムがアウェー独特の雰囲気に埋まる中、日本は押し込まれても頭の中に冷静さを保ってプレーする、そういう試合ができていたように思う。それはハンガリー、チェコ、アイスランドとアウェーで戦ってきたことから得たこのチームの「何か」かもしれない。とすれば、欧州遠征4試合を行った価値がある。

 「この諦めない強さを本物にしてほしい」とジーコ監督は力を込めて語った。

 問題は9日に控えるW杯一次予選のインド戦。帰国後の時差調整とともに、この2戦とはまったく異なる質とレベルの相手に、頭の切り替えと、この2戦以上の集中力が必要になる。ジーコ監督は現在の好調ぶりを維持したい考えで、「できるだけこのスタメンで臨みたい」と話したが、イングランド戦終盤に相手との接触から左足首を負傷したMF稲本は、ケガの具合にもよるが、使えない可能性が高い。

「ここで満足してはダメ。次の試合で結果をださないと意味がない」と三都主。その意識がチーム全体にあるか。答えは9日の埼玉スタジアムで出る。

サッカー日本代表の前後の記事

ページトップ