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日本人の高額契約に深まる危惧 

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菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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posted2007/12/25 00:00

日本人の高額契約に深まる危惧<Number Web> photograph by AFLO

 12月19日にカブスが福留孝介選手の入団会見を行った。これでオフにフリーエージェント(FA)からメジャーリーグ入りを表明していた日本人全5選手が年内中に契約を終えた。特に福留選手とドジャースに決まった黒田博樹投手は、メジャーの中でも主力選手並みの契約を結んだ。以前から日米球界の大幅な“年俸格差”は指摘されてきたことだが、このオフほど日本球界の将来に危機感を抱いたことはなかった。いよいよメジャーの巨大マネーの前に、日本球界の“常識”が通用しなくなろうとしているからだ。

 「今年は完全な売り手市場ですよ」

 日本を拠点に某メジャーチームのスカウトをしている知人が話してくれたが、このオフの日本人選手人気は半端ではなかった。これまでも野茂投手がドジャース入りした後の1996年以降の第一次ブーム、さらにイチロー選手が大活躍したメジャー1年目の後の2002年以降の第二次ブームと、何度か日本人選手が人気を集める時期があったと記憶しているが、今回ほど破格な扱いを受けるのは過去になかったように思う。

 「日本人選手の価値を上げてくれた岡島さん、斎藤さん、大塚さんの功労があると思います」

 12月14日にレンジャーズの入団会見で話していた福盛和男投手の言葉がすべてだろう。それこそ大塚晶則投手がポスティング(入札)制度を使ってメジャー挑戦を決めた2002年のオフには入札するチームが現れなかったことを考えれば、まさに雲泥の差。もちろん彼ら5選手を含めた今後の日本人選手の活躍次第でその商品価値も上下していくことになるだろうが、ここ1、2年の間でメジャー関係者の意識は、──スター選手でなくても、メジャーに適応できれば相当数の日本人選手がメジャーで通用する──という方向に向いており、今後さらに日本のFA市場にメジャーリーグが参入してくるのは確実だろう。

 「今年は半分しか活躍していないから法外な評価はできないと伝えた」

 某スポーツ紙のサイトで、福留選手と契約交渉を行った中日の編成担当の言葉が紹介されていた。確かに昨季の福留選手は右ヒジ手術を受け、シーズン後半を棒に振っている。毎年シーズン成績を元に年俸交渉を行う日本のやり方ならば、当然の考え方なのだろう。もし福留選手がFAでなかったならば、来季の年俸は現状維持(3億8500万円)か微減に留まっていたはずだ。しかしカブスは、福留選手に対し4年4800万ドル(約54億2400万円)を用意した。

 福盛投手の場合もまったく同じだ。今月8月に右ヒジ手術を受けシーズン後半戦に1試合も登板していない。それでもレンジャーズは、福盛投手の今季年俸(8300万円)をはるかに上回る2年300万ドル(約3億3900万円)で契約している。

 こんな状況が続くようでは、日本の“常識的な”選手評価基準は完全に崩壊してしまうだろう。というか、すでに選手たちがメジャー流の評価基準を目の当たりにしてしまった以上、もう遅いのかもしれない。選手たちが契約交渉の度に(メジャーとは違う)という不公平感を抱くようになってしまえば、選手たちのメジャー志向は加速度を増していくだけだ。とはいえ、日米球界の年俸格差はどうしようもない問題だし、日本人選手のメジャー挑戦は絶対に途絶えることはないだろう。だからといって無為無策で現状に甘んじているようでは、日本球界は本当にメジャーリーグに飲み込まれてしまう。早急に対策を講じるしかない切羽詰まった状況なのだ。

 それでは今後日本球界が求められるものは一体何なのか?多少青臭く、観念的な話になってしまうが、それは日本球界が選手にとって魅力ある存在になるということだと思う。そうすれば選手のメジャー流出を少しでも抑制し、さらにはメジャーに移った選手を再び日本球界にUターンさせられることができるのではないか。

 そのためには、球界関係者が少しでも多く選手たちの意見に耳を傾け、とにかく行動を起こしていくしかない。3年前に起こった球界再編騒動の際は、一般社会では考えられないような球界の“非常識な”体質が浮き彫りになったが、内部問題という甘えからか何ら変革につながらなかった。しかし今回は、メジャーリーグという巨大組織が眼前に存在している。黒船襲来を機に新体制へと移行した明治維新のような変革を、日本球界に期待するばかりだ。

 最後に私事で恐縮ですが、オフの自由時間を利用してこのたびブログを開設させてもらいました。このコラム同様、ぜひご愛読のほどを。

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