佐藤琢磨・中嶋一貴 日本人ドライバーの戦いBACK NUMBER

ウィリアムズの限界点。 

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西山平夫

西山平夫Hirao Nishiyama

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photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

posted2008/10/17 00:00

ウィリアムズの限界点。<Number Web> photograph by Mamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

 「開幕戦オーストラリアに次ぐくらいのいいレースができたと思います。ずっとポイントが取れなかったので、これは大きな1点。この調子を富士につなぎたいですね」

 F1初のナイトレース第15戦シンガポールGPで8位入賞! イギリス以来6戦ぶりのポイント獲得を中嶋一貴は大汗をかきながらそう自賛した。

 常々、一貴はウィリアムズというマシンの性格を「荒れた路面で、柔らかいタイヤを使うところが向いている」と評していたが、ストリート・サーキットでソフトとスーパーソフト・タイヤを使うシンガポールはまさにウィリアムズ向き。予選で一貴はQ1、Q2とも9位で、今季初のQ3に駒を進めた。その最終予選は10人中10位に終わったもののチームメイトのロズベルグも9位で、悲観することなどさらさらなし。一貴も「クルマも良かったし、自分の走りを合わせ込めた」と満足気だった。マシンもコースに合っていたのだろうが、新コースは新人とベテランの経験の差が出にくく、そのことも初の予選トップ10入りに深く関わっていたかもしれない。

 レースはストリート・サーキットの定石通り、クラッシュ発生でセーフティカーが出動することとなった。暗闇の中で次々起こるハプニングを乗り越え、8位でフィニッシュ。ホームGPに向けて、これ以上ない布石を打ったと言える。夜間とはいえ湿度が70%を超えるレースを終えた一貴はドリンクを立て続けに飲み干しながら「暑いっ!」と、この時ばかりは吐き捨てるように言った後、深夜便でホーム・グランプリが待つ日本へと戻って行った。

 2週間後、日本グランプリ直前の一貴は各種イベントに追い回され、好きな居酒屋(ただし下戸で、居酒屋メニューが好物)にも容易に行けないほど。まさに分刻みのメディア・スポンサー対応などを消化し、富士スピードウェイに乗り込んだ。走り慣れたコースとはいえ、F1マシンで本格的に走り込むのはこれが初めてである。

 一貴の“マシンとサーキットの相対性理論”(?)によれば、ミディアムとソフト、ミドル・レンジのタイヤが供給され、中速コーナーの多い富士という条件下ではウィリアムズの好走は難しいということになる。

 しかし、富士スピードウェイ入りした一貴は活き活きとした走りを披露した。金曜日午前中は10位、午後は7位。ウェット・コンディションとなった土曜日午前中はなんと5位! 期待は否が応にも高まり、それに呼応するように一貴は予選Q1を13位で突破。しかしそこがウィリアムズの限界点だったか、Q2は14位に終わった。それでも「マシンのパフォーマンスは引き出せたと思うし、チームメイトよりも上に行けたからそれなりに満足です」と、胸を張る。ただしマシンはグリップ不足の状態。やはりコースとの相性はさほど良くないようだ。

 67周の決勝はあっけなく終わった。1コーナーを駆け下ろうとした瞬間、目前のクルサードがリヤ・サスペンション破損でいきなり横を向き、そこに一貴が突っ込んでフロントウィングが宙高く舞った。この瞬間、一貴は「ああ終わったと思った」と言う。最後尾でピットに戻りノーズコーンを交換。タイヤをミディアムからソフトに換えて戦線復帰するも、最終的には1周後れの15位でフィニッシュ。アクシデントに遭わなかったロズベルグも11位だったから、いずれにしてもマシンの限界をブレークスルーすることは叶わなかったのかもしれない。レース後、一貴は「避け切れないアクシデントでしたから、しょうがない。ピットインした後は気持ちを切り替えて走りましたが、アッという間に終わった。声援をプレッシャーに変えることなく走り切れてよかったです」と、あまり表情を変えずに初のホーム・グランプリを振り返った。

 1週間後の次戦中国GPの舞台となる上海サーキットもまた一貴流“相対性理論”からは外れるという(タイヤはミディアムとハード)。それはどうあれチームメイトを押しのけるレースを期待したいものである。なお、来季の中嶋一貴はニコ・ロズベルグとともにウィリアムズ・トヨタ・チームに残留が決定した。

中嶋一貴

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