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欧州制覇のカギは、「飽き」と「私生活」。 

text by

倉敷保雄

倉敷保雄Yasuo Kurashiki

PROFILE

photograph byTakuya Sugiyama

posted2004/10/21 09:28

 これは僕の持論でもあるんですが、超一流の選手というのは、「飽きる」んです。サッカーをやり飽きている、のとはちょっと違う。ピッチの中でできないことはない彼らにとっては、自身の持っている技術やセンスをいかに面白く使えるか、が一番大事なことなんです。いくら完璧なシステムや戦術であってもずっと同じことをやり続けていると、時間に反比例して選手のモティベーションはどんどん落ちていく(デポルティーボ・ラ・コルーニャとイレルタ監督もそういうループに入りつつあるのかも……)。だから監督でも選手でも、とにかく新しい血が入ってくることを選手たちは基本的に歓迎します。

 その意味でバルセロナのライカールト監督は今までのところ、うまくやっていると思います。彼はもともとのバルサらしいものと微妙に違う新しい「色」を持ち込んだ。ライカールトが目指しているのは、一言でいうと、「9番」を使わないサッカー。前線でのボールのキープ率を上げて、ゲームを支配するという発想はクライフのそれに近い。さらに彼は選手時代にACミランで、アリーゴ・サッキの薫陶を受けていて、そのプレスディフェンスのエッセンスも取り入れようとしている。システムはサッカーにとって非常に重要な要素ですが、それを選手が面白がっているかどうかが、システムに生命を吹き込むわけです。

 もうひとつライカールトが賢明だったのは、今季開幕前の補強に当たってフロントにだしたリクエストの一番のポイントが、「所帯もちの選手であること」だったんですね。精神的にも肉体的にも過酷な状況を強いられる現在のフットボールプレーヤーにとって、私生活で余計なトラブルを抱え込まずに、ピッチの中の仕事に集中できる環境を整えることは必須、といっていい。ジュリー、ラーションがあっさりなじんで活躍しているのも、ライカールトの狙い通りといえるでしょう。今のバルセロナは「みんながロナウジーニョ」状態。新しく与えられたポジションで、自らの技術とアイデアでどんどん勝負していて本当に楽しい。

 ただ、その伝でいけば、カマーチョを新監督に迎えたレアル・マドリーは、今季は完全復活するはずだったんです。クラブ生え抜きで、スペイン代表を見事にまとめあげたカマーチョなら、前任者と違って、スーパースターたちを巧くコントロールしながら、彼らの間に再びハーモニーを生み出す可能性はあった。

(以下、Number613号へ)

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