Number ExBACK NUMBER
サントリーサンゴリアス 清宮マジックからの自立。
text by
大友信彦Nobuhiko Otomo
photograph byHideki Sugiyama
posted2009/01/29 00:00
名将にいったい何が起きているのか。選手との微妙な関係を中心に、深層に迫った。
ホントは強いのか、弱いのか。
大詰めを迎えた2008年度のラグビーシーズン。ファンをやきもきさせているのが、昨季のトップリーグ王者サントリーである。清宮克幸監督就任3年目の今季は、元豪州代表で世界最多キャップ139を持つジョージ・グレーガンも加入。ステージを上げてシーズンに突入した……はずだった。
なのに、何だかスッキリしない。
開幕戦では三洋電機に9対19で敗れた。
もっともシーズンは長い。昨季の日本選手権チャンプに初戦で敗れても悲観する必要はあるまい。だが今季のサントリーは、その後もじれったい戦いを続けた。
第3節のクボタ戦は、相手にシンビンが出た隙に3トライを畳みかけ、前半で最大19点差をつけながら後半反撃を浴び、後半30分には4点差まで迫られる冷や汗の勝利。第5節のヤマハ戦は前半を15対7とリードしながら27対31の逆転負けを喫し、翌週からは横河、コカ・コーラウエスト、サニックス、近鉄、NECを相手に、いずれも前半は相手に先行されながらの戦い。近鉄戦は相手がレッドカードで自滅し、NEC戦は逆に、2枚のイエローカードを受けながら相手の拙攻に救われたが、いつ負けてもおかしくない戦いぶりに見えた。
有賀剛と佐々木隆道という若手リーダーが、開幕前後に相次いで戦列を離れた影響もあるだろう。日本代表でも活躍した新人畠山健介のプロップの規格を越えた仕事量、7人制日本代表の2年目SH成田秀悦の爆発的なスピード……新たな才能も台頭しているが、外国人枠が3に増え、厚い選手層のアドバンテージが相対的に低下した面もある。
だが、やきもきの原因は、そんな事情よりもっと別にあるんじゃないか。
全戦全勝のカリスマ指揮官──メディアを巻き込んで神格化され、賛美されてきた清宮克幸の存在感が、何だか薄れてきたように見えてしまうのだ。
専制君主のごとき清宮のカリスマ性は、早大監督としての圧倒的な実績によって形成された。それまで王座から見放されていた早大を劇的に蘇生させ、5年間で対抗戦はすべて全勝優勝。大学選手権でも3度の優勝を飾った。そして'06年にはサントリー監督へ、強豪大学のトップ選手をゴッソリ引き連れて就任。「当然、1年目から優勝を狙います」と言い切るカリスマには「次のジャパン監督に」という、気の急いた礼賛も捧げられた。
だが1年目はリーグ戦でヤマハと東芝に敗れ、プレーオフでも東芝に逆転負け。
「この本は売れない。もっと感動できるストーリーを作ろう」とリベンジ宣言して臨んだ2年目の昨季は、プレーオフで三洋電機を破り、初タイトルを掴んだものの、日本選手権決勝の再戦では大敗を喫した。
そして舌禍。昨季のリーグ戦、敵地・太田で三洋に敗れたときは会見で「ここ、遠いんだよな」と言い出し、主将代行の大久保直弥が「それで負けた訳じゃないです」と取りなした。プレーオフで勝つと「三洋はリーグ戦ではたまたま勝った」。日本選手権決勝で敗れると「今日は向こうの外国人がたまたま調子が良かった」……。清宮のブログは炎上を繰り返し、ついにはコメント欄が承認制に変更された。
確信犯でヒールを演じているわけではあるまい。八つ当たりにも似た本音はある意味で正直な証だろう。何よりサントリーの成績が劇的に上昇していることは間違いない。だが2シーズンで実際に掴んだタイトルは、徹底したモール戦で時間を空費させ、4点差で逃げ切った昨季のプレーオフのみ。それも1カ月後には5倍返しの22点差で雪辱されたという事実には閉塞感も漂う。トップリーグ王座に就いても優勝祝賀パーティが開かれなかったことは、サントリー自身が昨季のタイトルを勝利と見なしていないことを物語る。
清宮監督3年目の今季はチームの体制が改められた。'95年度の日本選手権初優勝以来、5度のタイトルをサントリーにもたらした土田雅人元監督がGMに就任。清宮監督が「影響を受けた」と公言する唯一の指導者である土田は、シーズン最初のミーティングで全選手を前に「いつまでも清宮サントリーと言われてるようじゃ勝てへんぞ」と言い放った。若手には顔色を変えた選手もいた。清宮に対等以上の立場で接する人物は、これまでサントリーにはいなかったのだ。その言葉を当の清宮は、苦笑して聞いていたという。
(続きは Number721号 で)