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vs.Scotland vs.Bulgaria 少なくなかった好材料。 

text by

戸塚啓

戸塚啓Kei Totsuka

PROFILE

posted2006/05/25 00:00

 試合終了直後の埼玉スタジアムを包んだのは、なんともいえない微妙な空気だった。

 ジーコ監督のチームが埼玉スタジアムで戦うのは、これが10度目である。そのうち5試合は1点差の勝利で、快勝と呼べるのは'04年6月のインド戦しかない。それでも勝利だけは逃さないというのが、'03年12月の香港戦から過去7試合続いてきたパターンだった。

 '03年6月のパラグアイ戦以来となる埼玉スタジアムでのドローに、5万8000人を超える観衆は抱いていた期待のぶんだけ不安を感じたのだろう。オーストラリアとの初戦まで1カ月を切っている時期に2試合連続で勝ちきれなかったという焦りも、大きかったかもしれない。それが、ブーイングはないが拍手もまばらという空気につながっていた。

 だが、私自身はさほど悲観的ではない。

 理由はいくつかある。

 今回来日したブルガリアとスコットランドの両チームは、日本に勝利をプレゼントするためにやってきた相手ではなかった。どちらもベストメンバーではなく、しかもタイトなスケジュールで日本戦に臨んだが、それなりのクオリティを保っていた。

 ブルガリアは試合運びが巧みだった。ストイチコフ監督が一番のビッグネームという欧州の中堅チームだが、しっかりとした戦術眼を備えた集団だった。日本を自陣におびき寄せながらカウンターを仕掛けることで、ゲームをコントロールしていた。

 開始1分と後半ロスタイムに失点を喫したのは、日本の注意力不足だけが理由ではあるまい。とくに触れるべきは先制点だろう。ジーコ監督とともに戦う国内のテストマッチは34試合目だが、過去の対戦相手はほぼ例外なく慎重な立ち上がりを選んでいる。一発のサイドチェンジを通させてしまったDF陣の対応に問題はあったとしても、ブルガリアの抜け目なさを評価すべき場面である。

 スコットランドは理に適ったゲーム運びをしてきた。ブルガリアに5-1で大勝したことで、2点差以内の敗戦なら優勝できる。中1日で2試合を消化する日程を考えても、「守備に照準をあてた」というスミス監督のゲームプランは妥当だっただろう。

 ブルガリアほどカウンターは鋭くなかったが、彼らもまた試合の流れを読み取る力に長けたグループだった。国際水準の高さと強さを備えていたのは言うまでもない。

 そう考えると、どちらの試合ももっと前向きにとらえることができるはずだ。

 ブルガリア戦では決定力不足と言われた。シュート20本で1得点では不満も募るが、決定機は8度もあった。チャンスは作り出していたのだ。代表マッチは40日ぶりで、前週末にはJリーグを消化していたことも忘れてはならない。

 ノーゴールに終わったスコットランド戦も、決定機は8回を数えた。右ポストを叩いた24分の加地亮の左足ミドルは、ディフェンシブな相手を攻略するための有効な足掛かりであり、29分には小笠原満男のミドルシュートがGKを襲った。43分の小野伸二と52分の小笠原のシュートシーンは、ブルガリア戦よりも一歩進んだ連動性が生み出したものだった。ゴールへのアプローチに問題はなかった。

 チームの特徴も生かされていた。FKである。このところのゲームで物足りなかったのは、ゴールを狙える位置での直接FKがあまりにも少ないことだった。国内組だけでも小笠原、小野、遠藤保仁、三都主アレサンドロと左右両足のキッカーが揃っているのに、彼らがゴールを狙う機会がほとんどなかったのである。2月のボスニア・ヘルツェゴビナ戦でも、3月のエクアドル戦でも、FKはサイドからに限定されていた。

 スコットランド戦は違った。後半開始直後にミドルレンジから狙った小笠原のシュートがワクをとらえ、後半終了間際には三都主が2本連続で相手GKを襲った。

 1-0で勝利した3月のエクアドル戦と比較しても、攻撃のバリエーションは豊富だった。海外組を加えたメンバーのベースとなる4-4-2で、専守防衛のスコットランドを追い詰めたのは評価できる。

 久保竜彦のイメージと周囲のプレーがいまひとつ噛み合わず、彼の特徴が発揮される場面が少なかったのは2試合に共通した懸案事項である。それでも、個人レベルのプレーは相対的に上がってきている。

 とくに名前をあげるべきは小野だ。

 3月のエクアドル戦後に「試合に対するイメージがまだまだ。判断が遅い場面がすごくある。周りが見えていない」とジレンマを隠さなかった背番号18は、「キリンカップまでのJリーグでコンディションをあげていきたい」という言葉を現実のものにした。2月のテストマッチに比べると、決定機につながるプレーが格段に増えている。彼の復調はジーコ監督にとっても頼もしいはずだ。

 無失点という結果も今後につながる。単なるスパーリングでしかなかった2月のインド戦を除けば、4バックで無失点を記録したのは昨年6月のギリシャ戦以来となる。

 福西崇史が4バックと密接な連繋を保ったスコットランド戦の守備は、海外組が合流してからの中盤の構成にも生かせるものだ。ゴール前のハイクロスにきっちり対応した川口能活も、「この位置のボールは誰が処理するのかといった、プレーエリアの確認をする」というキリンカップでのテーマをクリアした。ブルガリア戦では何度か冷や汗をかかされたカウンターへの備えも、スコットランド戦では申し分のないものだった。

 14分のシーンだけは反省しておきたい。4バックとボランチの間に走り込んできた相手への対応がズレたことで、三都主の背後のスペースへ侵入されてしまったのだ。

 あとは、自陣での不用意なファウルを減らしていくことだろう。サイドであってもFKを与える回数が増えると、ボスニア・ヘルツェゴビナ戦のようにリズムを崩しかねないからだ。最終ラインが下がり過ぎず、選手同士が適切な距離感を保つことで、ファウルで対処せざるを得ない場面を減らしていくべきだ。

 4年前を振り返ってみても、この時期のテストマッチではさほど成果をあげていない。4月29日にスロバキアを1-0で退けたが、決勝点はほとんどオウンゴールのようなものだった。5月2日のホンジュラス戦は、3-3のドローだった。国際レベルに程遠いGKのアシストがなければ、黒星を献上していただろう。5月14日にはアウェーで、ノルウェーに0-3の完敗を喫している。グループリーグ突破の歓喜に包まれる1カ月前のチームは、こうした状況にあったのだ。

 アジア最終予選の試合を控えたちょうど1年前のキリンカップでも、日本は1勝もできなかった。国内組中心のメンバーで臨み、ペルーとUAEのカウンターに沈んだ。

 ブルガリアに喫した敗戦は偶然ではなかったし、スコットランド戦の引き分けもしっかりと受け止めるべきものだが、1分け1敗という結果を必要以上に重く考えなくていい。むしろ、1年前のキリンカップよりレベルの高い対戦相手から、1年前より多くのチャンスを作っていた事実に、もっと目を向けていいはずだ。

 今回の2試合とまったく同じメンバーでワールドカップを戦うわけではない。4年前もそうだったように、所属クラブから代表への精神的な切り替えと、最終的な選手選考が、キリンカップの目的だったのだ。

 「今日の試合内容は、いままでやってきたことへの確信をもたらしてくれるものだった」

 スコットランド戦後の、ジーコ監督のコメントである。1年前にも同じような言葉を聞いたが、表情は当時よりも自信に満ちていた。これも私が悲観的でない理由のひとつである。

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