Number ExBACK NUMBER
三木谷浩史「変革は必然なり」
text by
鷲田康Yasushi Washida
posted2005/01/20 00:46
――球界に参入してみて、改めて野球界の壁の大きさを感じるところはありますか。
「それはどこの世界でも、そういう力学が働くと思うんでね。野球というのは普通の産業ではなくて、業界全体で盛り上がっていかなくてはいけないということを認識するべきだと思います。僕は変えていけるんじゃないかなという自信はありますけど」
――一部では楽天の参入は既成球団の思惑もあったと言われています。オリックスの宮内義彦オーナーが三木谷オーナーとともに読売新聞の東京本社に巨人の渡辺恒雄前オーナーを訪ねて参入が決まったとも聞きましたが……。
「それはない(笑)。それはないですね。宮内さんは最後まで1リーグでしたから、そういうことはないでしょう。逆に僕のことを恨んでいるかもしれないぐらいですよ(笑)」
――日本球界というのは、保護して保護して、自分たちの既得権益を守る形の仕組みを70年間積み上げてきているわけですね。それはやっぱり破壊しないとダメですか。
「破壊っていうのではなく、僕は素人だから。なんでそんなことやってるんですか、というのはありますね(笑)」
――ソフトバンクがダイエーを買収しました。こういうIT産業の相次ぐ参入に、既存球団のオーナーの方々は、何だかわけ分からんところがきて、球界の秩序を引っかきまわすぞ、という雰囲気もあるんじゃないですか。
「僕の印象ではそういう感覚は無いですね。既存のオーナーの人たちは、むしろ“そんなに甘くないんだよ”“お手並み拝見といこうか”という感覚じゃないですかね。僕たちの言っていることで信頼性を得るためには、自分たちが成功するということが必然なんです。野球も強いし、財務的にも健全だし人気もあるというチームが、巨人以外にもどんどん出てくること。でもパ・リーグって面白いと思いません?― 北海道があって、うちがあって、孫さんのところもあって」
――今までの球界は巨人とともに生きていけばなんとかなるという感じでした。そういう巨人中心主義は変わるというか実感はある?
「それは変わらざるを得ないでしょう。今の野球界のビジネスモデルは、テレビの地上波が4つか5つしかないという環境の中で構築されてきたと思うんです。それが、衛星放送が出てきて、ケーブルが出てきて、インターネットが出てきて……。地上波オンリーのビジネスモデルというのがかなり崩れてきたわけです。そういうことから考えても、1チームにすべてを依存するビジネスモデルはもう無いということだし、見ててもあんまり面白くないということなんだと思います(笑)」
――巨人中心から地域密着へ、というのが今後の流れとしてあると思います。その点ではJリーグがよくお手本とされます。ただ、週に1回、ナビスコカップを入れても2回の試合に5万人を集めるサッカーと、週に6日、本拠地に3万なり5万の人間を集めなければならない野球では違うのではないですか。
「それは興行のやり方なんじゃないですか。経済基盤が大きいほうがいいのはありますけど、経済基盤が大きくなると、他のアトラクションも出てくる。クラブもあれば映画館もある。おいしいレストランもあればいろんなものがあるじゃないですか。だからどっかに均衡点があると思います。変な話、新潟の人にとっては、アルビレックス新潟というのが最大のエンターテインメントなんです。東京だと、ディズニーランドもあれば、他にも楽しめるものがいっぱいある。必ずしも大都市圏が有利というわけではないですよ」
――正式なチーム名は東北楽天ゴールデンイーグルスです。そこには仙台を軸にした東北圏という考え方があるわけですか。
「そうですね。個人的には道州制の導入というのは日本の国としては行うべきじゃないかと思ってますし。東北っていうのは若干違うところもあるんですけども、基本的に経済圏としては一体的なんです。そういう面で、東北っていいんじゃないかなと思いますね。アメリカなんかだと、アメフトなんかニューイングランド・ペイトリオッツとか、必ずしも都市の名前をつけていない。ファイターズも札幌じゃなくて、北海道としている。ちょうど、その幅の広がりを考えると、いい括りじゃないかなと」
――都市フランチャイズじゃなくて、地域フランチャイズ的な考え方ですね。
「そうですね。プラス、我々が出ることによって、それをベースに東北が一体化することができると思うし。面白い企画ができるんじゃないかと思っています」
――球団を持ってみて、改めて維持していくのが大変だなという感じはありますか。
「そんなことないですね」
――三木谷オーナーの具体的なビジネスプランはどんなものがありますか。
「基本的にはあらゆる収益機会を捉えていくということだと思います。収益源というのは4つあって、その中の1つはスポンサー収入なんです。これは今までの野球界にあんまり無かった概念だと思いますけど。なんで実現できてるかというと、宮城球場の運営を我々でやらせていただけるようになったからなんです。それから、次がファンですね。ファンを中心とした観客動員。これはいろんなアトラクションを行うことによって、2万何千人の球場ですけどこれをいっぱいにしていこうと。3つめはマーチャンダイジングですね。マーチャンダイジングに関しても、モーニング娘。とコラボレーションしながら、いろんなグッズを製作して販売していく。4番目はメディア。テレビ放映および、インターネット放送というのをやっていく」
――放映権に関してはやはりインターネット中継を大きな軸に考えるんですか。
「そんなことないですよ。基本はまだまだテレビ。インターネット放送は年間パスで買ってもらおうと思っているんです」
――インターネット中継の放映権については新しいメディアと考えて、コミッショナーがそれこそ一括に管轄して、12球団に分配するという形もあるかと思いますが……。
「まあ、僕はわからないですけど、今の仮説では個別でやったほうがいいかなと思います。何でかというと、Jリーグは放映権一括管理型なんですよ。それを弱いチームにも放映権を分配して……。でも、それが実際に放映されているかというと、結局されていないんですよね。結局、やるときにJリーグにいちいちお伺いを立てて、こちらが営業努力をするということにはならないから……」
――インターネット中継の可能性は?
「インターネットの視聴者ってのは現時点でいうと、野球放送の補完的部分だと思います。ただ、間違えないほうがいいかなと思うのは、そのマーケットというのは狭いんだけど深いんですよ。マスじゃないですよ。マスでバーッとやろうとするから儲かんない」
――球団経営の目標は儲かることですよね。
「よく聞かれることですね。僕はね、なんか、赤字って嫌いだし。赤字でやっているという概念自体もよくわからないんですよね。何で赤字で平気なのかなって。プロ野球というのは興行としてビジネスとして成功させる。それが基本だと。若干ね、チームの名前に企業の名前をつけてますから、スポンサー収入ということで数億円のマージンというか、広告料を親会社が払うという考え方もあると思います。ただ、30億でも40億でも100億でも赤字でもいいんだという考え方は、非常に不健全でしょう」
――楽天本社の5つの指針の中にスピードというのがあります。このチームはどれくらいのスピード感で黒字を出し、チームとして軌道に乗せられると……。
「できないかもしれないけど。目指すは初年度から。分からないですけど、チャレンジです。でも10億はいかないと思いますよ。ゼロから10のどこかの間だと思います。黒字が出ても数千万円だと思いますけど(笑)。ゼロから10のどこか。移籍金を除けばいいところまでいくと思いますよ」
(以下、Number619号へ)