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ピエール・リトバルスキー「最後は得失点差の勝負だろう」
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
posted2005/12/22 00:00
日本はくじ運に恵まれなかった。クロアチアは欧州の強豪の一角だし、ブラジルがグループリーグを突破するのは明らかだ。スウェーデンやイングランドでさえもグループを勝ち抜ける保証はないが、ブラジルだけは100%の確率で決勝ラウンドに進む。そしてオーストラリア。ランキングは日本よりも低いし、ファンは勝利を期待するだろうが、この試合もチームのポテンシャルを考えた場合、決して楽な展開にはならない。しかも、そのオーストラリアと最初に対戦するということは、日本が最初の試合でいきなり勝負をかけなければならないことを意味する。組み合わせの厳しさは日韓W杯の時の比ではない。
しかし、この3カ国を相手にうまくグループリーグを勝ち抜けることができれば、同じベスト16でも、その成果は4年前とは比べ物にならないほど大きいということになる。ホームアドバンテージがない分不利になるのではないかと危惧する声もあるようだが、心配する必要はないだろう。これが韓国代表ならばホームとアウェーの違いは大きいかもしれない。また、マラカナン・スタジアムで11万人を前にプレーするというのなら、プラスアルファの力を出す可能性もあるだろう。だが基本的に日本の選手は、アウェーでもコンスタントに力を発揮する。それはJリーグも同じだ。そもそもホームアドバンテージの影響力がそれほど大きいなら、日韓W杯でトルコに負けるようなことはなかったはずだ。
ではその4年前と比べて日本のチームはどう変わったのか。個々の選手の成長は誰もが口にするだろう。柳沢、中田(浩)、中村といった選手は前よりも逞しくなったし、自信も身につけた。フィジカルやメンタルも強くなり、ボディランゲージやコメントで、感情や意見を伝えるのもうまくなってきている。
だがシステムや戦術という点ではいくつかの問題が残っている。今回のような厳しい条件の中で生き残っていくためには、柔軟にフォーメーションや戦い方を変えられるようにしておくことが最優先課題となる。私は今でも3バックよりも4バックがいいと考えているが、一口に4バックといっても4-4-2だけではなく、4-3-3や4-5-1でも戦えるようにしなければならない。それには相手の戦術や試合状況の変化に柔軟に対応するのはもとより、こちらの選手が怪我をしたり調子を落としたりした場合に備えるという目的もある。チャンピオンズリーグであろうとW杯の予選だろうと、チームが複数のシステムを準備して試合に臨むのはもはや常識だ。
この点で現在の日本代表は非常に苦労している。たしかにジーコはいくつかのフォーメーションをテストしてはきた。だが、3バックにせよ4バックにせよ、どのシステムもまだ100%信頼できるものにはなっていない。フィジカルやテクニック面での準備はきちんとできるだろうが、選手もシステム面では不安を感じているのではないだろうか。
その根因は、日本代表が組織的なプレーではなく、選手個人の力に依存したサッカーを志向している点にある。細かなプレーでいえば、日本がFKやCKから敵の意表をつくようなプレーを仕掛けるケースは少ないし、中澤のようなDFと福西のようなMFがポジションを交換するような場面も多くはない。意思の疎通はまだまだ不足している。複数の選手がボールに絡みオーバーラップしたり、スペースをカバーしたりするような展開もなくはないが、それは意図的なものというよりは多分に偶発的なものだ。もちろん代表の場合はクラブチームと違って組織プレーを浸透させていくのが難しいが、そういう取り組みをきちんと行っている国があるのも事実だ。
同様に日本代表の課題としてしばしば挙げられる得点力不足については、ただ一本調子にプレーするのではなく、組織的でかつバリエーションのあるプレーで攻撃パターンを増やしていくことが必要だと思う。たとえば中村のFKは秀逸かもしれないが、彼のテクニックだけに頼ろうとするアプローチは危険だ。大会が始まった後に中村が怪我でもすれば、取り返しのつかないことになってしまう。
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