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中竹竜二 信は力なり。
text by
時見宗和Munekazu Tokimi
photograph byYoshiyuki Mizuno
posted2009/02/12 00:00
「トップレベルのラグビーの経験はないが、おまえには人を巻きこむ力がある」
清宮から推薦理由を聞くまえに、すでに中竹の気持ちは決まっていた。
「チャンスがあるのなら、やらせていただきます」
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清宮は天性の勝負師だった。大学選手権優勝3度、準優勝2度、関東大学対抗戦5年連続全勝優勝。すばらしい実績をのこしたが、その反面、強引とも思えるものごとの進め方に反発を覚えている人間が関係者のなかにいることもたしかだった。
清宮さんが辞めれば、たまっていた不満があちこちからいっせいに吹き出すだろう。そうした不満を受け止め、逆風に耐えられるのはだれか。中竹は監督候補に挙げられた名前を見わたして思った。
ベストではないかもしれないが、もっとも打たれ強いのは自分だろう。中竹にとって監督は「やりたい」ものではなく「使命」だったのである。
フルタイムで3年間の(契約ではなく)約束だったから、三菱総合研究所で働き続けることは不可能だった。だが、使命である以上、退社は当然のことだった。
逆境を乗り越えるために中竹が選んだ手段とは。
監督に就任した中竹を待ち受けていたのは予想通りの逆風と、部員達の予想以上に「冷ややかな態度」だった。
勝利への最短距離を教えてくれる清宮の贅沢なコーチングに慣れていた部員達は、指導経験を持たない中竹を頭からバカにしていた。練習メニューを伝えると、露骨にいやな顔を見せ、背後から舌打ちが聞こえた。
選手をAチームからBチームに変えると、こんな陰口が漏れ聞こえてきた。『ラグビーがわかっていないから、オレのことをBに落としたんだ』『あいつじゃ勝てない』『監督を代えてくれないかな』。選手たちの感情は連鎖し、拡大し、なにもかもが負の方向に流れていった。
3カ月経っても一向に状況は変わらなかったが、中竹は強引に流れを変えようとは思わなかった。
自分が現役のときと、まるで気質がちがうけれど、だからといってすべて否定するべきではないだろう。彼らのなかには彼らなりの理由があるはずだ。
流れを変える代わりに、中竹は面接をとおして正面から部員達により近づいていき、はたして新しい事実を発見する。