野球善哉BACK NUMBER
藤川球児にある異変が起こっている!?
さらなる進化を狙う、守護神の秘密。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2011/05/09 12:20
2004年に肩の故障で二軍にいた時、当時の二軍投手コーチだった山口高志の指導でフォームを改造した藤川球児。直後、本格派の中継ぎとして一軍へ定着した
藤川球児に異変を感じる。
悪い意味の話ではない。今シーズンの藤川が、今までイメージされてきた投球スタイルとは異なるパフォーマンスを見せている、ということだ。
それは、今季初めてサヨナラ負けを喫した(黒星付かず)5月4日の巨人戦後のコメントからも、明らかだ。
藤川は9回裏無死1、3塁のピンチでマウンドに上がり、ツーナッシングと追い込んでいる中でフォークを投じ、サヨナラ安打を浴びた。
「やれることをやったんだけど……。フォークを上手く打たれた。追い込んだから、三振を狙った」
数年前の藤川なら、ありえなかった言葉ではないだろうか。
藤川の真骨頂はストレート――長きにわたりそう言われてきた。何より、本人自身が変化球での痛打を嫌い「ストレートを投げて打たれた方が悔いはない」と頑ななまでにこだわっていたのである。この試合後の、あっさりとフォーク勝負を認めた彼の言葉が示すものは“イチ投手”が新球種に活路を見出したものとはワケが違う。異なるスタイルでのクローザー・藤川が存在することを示す発言ではないか。
ここ数年の藤川のストレートには、全盛期の勢いを感じない。
「スタイルを変える……。そうやなぁ。そうしないと抑えられなくなっているというのは確かにあるやろうね」と語るのは一軍のピッチングコーチを務める山口高志である。
阪神のコーチに再就任して今季で3年目になる山口は、前回の就任時に二軍時代の藤川を見ていた。それだけに、彼を見つめる言葉には重みがある。
山口コーチの言葉が裏付けるように、ここ数年の藤川のストレートには全盛期ほどの勢いを感じない。長年の疲労が蓄積しているとも言われるが、否定できない事実だろう。特に、彼の投球を見ていて気がかりなのは抜け球が多くなったということだ。
身体に疲労感が少ないシーズン当初こそは問題なく投げられているが、中盤から終盤に差し掛かると抜け球が増える。
また、それを抑えようとすれば、力の無いボールがストライクゾーン付近に集まり、打者の餌食になるということが実際に起きていた。ある時には、抜けた球がその日のMAXを計時するという事件もあったほどだ。
昨シーズンを顧みれば……今シーズンの藤川がピッチングの中にフォークを多く取り入れようとしているのも、理解できない話ではない。