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日本代表 東欧遠征 確実に増えたオプション。だが何かが欠けている。 

text by

戸塚啓

戸塚啓Kei Totsuka

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posted2005/10/27 00:00

 何かが、足りない。

 東欧遠征の2試合が教えてくれたのは、チームの成熟や進歩ではなく、日本人の考え方の危うさではなかっただろうか。

 世界を視野に入れて現状を把握してみよう。

 やはり我々には、何かが欠けている。

 今回の遠征のテーマは、中盤より前の組み合わせにあった。

 「後ろの人間はかなり長く同じメンバーでやっているので、1、2試合変えたぐらいで連繋が崩れることはない」

 ジーコ監督の意図は、第1戦で土肥洋一を起用したことにも表れていた。GKも含めたDFラインはバックアップ層の経験値アップに主眼が置かれ、海外組が占める中盤より前では実戦的なテストを行ったのである。

 これまでの選手起用と遠征前のジーコ監督の発言からすると、ラトビア戦のスタメンには、9月のホンジュラス戦と同じ6人が同じシステムで並ぶのではないかと予想された。ところがジーコ監督は、いつものボックス型ではなくダイヤモンド型で中盤を構成した。

 これはうれしいトライだった。本大会までのスケジュールから逆算しても、新しいオプションづくりを行うには最適のタイミングだからである。しかも最終ラインの枚数ではなく、中盤に着目したところに価値があった。

 ボランチが2枚になるボックス型は、それだけでディフェンスがしっかりすると思われがちだ。しかしアウトサイドが開いた瞬間は、2トップとダブルボランチの間がぽっかりと空いてしまう。そのタイミングで目の前のスペースを使われると、2人のボランチは一気に苦しい立場へと追い込まれるのだ。

 そこでダイヤモンド型である。1ボランチへの負担の大きさは、両サイドがバランスを取ることでカバーできる。トップ下がいることで、ボランチと2トップの間にもクッションが入る。使い方次第で守備の不安を軽減でき、攻撃的MFを3人送り出せる二重のメリットが見込めるのだ。中盤の豊富な人材を、チーム力にうまく還元できるのである。

 ラトビア戦で左サイドハーフに入った松井大輔のプレーが、ダイヤモンド型の特性を分かりやすく説明してくれる。「逆サイドが上がったら下がらなきゃいけないと思っていた」という前半は消化不良のまま終えたものの、「前へ行くときは行っていいとヒデさんに言われた」という後半はボールへの絡みが格段に増えたのである。サイドハーフにふさわしい高い位置をキープできたわけだ。

 代表クラスのMFであれば、攻守のバランス感覚は標準的に持ち合わせている。松井がちょっとした確認でフィット感を増したことを考えれば、ダイヤモンド型をオプションに加えないのはもったいない。ラトビアと同等クラスの相手から勝ち点を狙うゲームなどでは、有効な打開策となりうるだろう。

 タレント豊富なMF陣をフル活用する意味では、中田浩二の左サイドバック起用も継続してほしい。ジーコ監督のファーストチョイスである三都主アレサンドロは、クロスの精度に秀でるものの突破力をアピールしきれていない。ならば、三都主よりディフェンス面の計算できる中田浩を使ってもいいはずだ。彼のドリブルは予想以上に力強く、屈強な東欧勢にも通用していた。

 小野伸二の離脱は残念だったが、ジーコ監督の構想は明らかになった。ラトビア戦の前日に、彼をサイドハーフとしたダイヤモンドが組まれたのである。1ボランチなら中田浩や稲本潤一のほうがプレースタイルにマッチするだけに、ダイヤモンド型ではサイドが彼のポジションになりそうだ。

 トゥルシエ前監督のチームと同じように、3-5-2のアウトサイドも視野に入る。タテへの突破は基本的に右サイドからで、左サイドはライン際の崩しにこだわらないとすれば、小野のサイド起用にも無理はない。

 その小野に代わってスタメン出場した松井は、「ドリブルで突っかけてチャンスメイク、サイドから駆け上がってセンタリング。自分のなかでは役割は決まった感じがする」という言葉どおり、タテへの推進力で定位置争いに参入してきた。ダイヤモンド型のサイドハーフは適役と言えそうで、可能性を今後につなげたとみていいだろう。左サイドにも突破力が欲しい時間帯では、三都主や小野ではなく松井という選択肢が生まれつつある。

 ウクライナ戦はシステムや選手の評価が難しい。主審に試合を壊されたからだ。ラトビア人のホイッスルは、日本のプレーを容赦なく規制した。同時に、ウクライナを過剰なほど丁重に扱った。

 中田浩へのレッドカードは、違う主審なら警告で済んでいただろう。箕輪義信が献上したPKは、いたって正当なチャージだった。

 流れをつかみかけたり、押し戻したりしたところで直面した不当なジャッジは、とくに数的不利になったあとのチームを苦しめた。前半終了間際に2度目の警告をもらいかけたことで、後半の稲本は球際の激しさを発揮できなくなっていた。

 極めつけが試合終了間際のPKである。

 「考えられないジャッジだった」と、川口能活が怒りをにじませたのも当然だった。

(以下、Number639号へ)

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