ジーコ・ジャパン ドイツへの道BACK NUMBER

2005年 VSアンゴラ 

text by

木ノ原久美

木ノ原久美Kumi Kinohara

PROFILE

photograph byToshiya Kondo

posted2005/11/21 00:00

2005年 VSアンゴラ<Number Web> photograph by Toshiya Kondo

 「流れを変えたい」。

 その強い思いをベンチからピッチに運んできたMF松井の一撃が、得点力不足のチームを救った。

 11月16日、日本は今年最後となる試合でワールドカップ(W杯)初出場を決めているアンゴラと対戦し、松井の終了間際のヘディングゴールで1−0の勝利を収め、今年の活動を白星で終了した。

 チームが最後まで諦めずに攻めたことは評価できる。特に、後半20分から出場した松井の積極的な姿勢が前面に出たプレーは、後半眠りかけていたチームメイトの目を覚まさせ、ロスタイム突入直前の貴重なゴールを生み出した。

 代表試合出場4戦目で代表初ゴールを飾った松井に、ジーコ監督も「なんとか勝ちに結び付ける、W杯の23人に入るんだという気持ちがよく出ていた」と賞賛を惜しまなかった。

 だが、それまでの90分間は代表チームが抱えてきた得点力不足を改めて示すものだった。

 日本が悩まされているこの課題の背後には、これまでにジーコ監督が何度も指摘してきた「ゴール前での冷静さの欠如」という精神面もあるだろう。だが、それ以上にこの試合で改めて気になったのが、チーム全体としての攻撃の組み立てだった。

 後半、日本は運動量が落ちて攻守の切り替えのスピードが鈍り、試合の展開も同じペースで同じパターンを繰り返すばかり。しかも、組み立てを仕掛けようというところで、相手にカットされてボールを失う、あるいはフィードミスをするという場面が少なくなかった。スピードを上げた直後にいきなり急ブレーキをかけたようなもので、自分たちはピンチになり、相手に攻めのリズムを作らせることになっていた。

 アンゴラはチームとしてディフェンスの意識がしっかりしていた。今回のW杯予選でも10試合で6失点と、グループ2位に終わったW杯出場経験国のナイジェリアより1失点少ない。中田英寿や中村、稲本ら中盤の選手も相手のマークにやりにくそうだった。

 しかもアンゴラは攻撃でも、アフリカチームにありがちな身体能力と個人技に任せたものではなく、組織としてのまとまりがある。ただ、目を見張るようなスキルやフィジカルの強さは感じられなかったので、日本が組み立てでボールを不用意に失っても今回は対応できた。だが、W杯本番ではこの程度で済まされないことは言うまでもない。

 日本は、90分間の試合中にピッチにいる11人の描いている組み立てのイメージが一致していないように見えた時間帯が何回かあった。各自の思いつきだけで、チームとして連動していない。

 選手Aがボールを獲って動き出すと、それを見て周りの選手が動き出すという場面が、特に後半目に付いた。Aがボールを受ける時に選手BやCは動き出している状態でなければ、DF宮本が不足していると感じた「畳みかける動き」は生まれないだろう。

 ジーコ監督は就任以来、それを選手が自分たちで作り上げるようにしてきた。与えられたことだけを指示通りにこなしていた前任者のトルシエ監督時代から比べると、この作業は難しい。完成させるには、同じような顔ぶれが何度も集まって練習して、共通理解を高めて各人がその動きを体に浸みこませるしかないだろう。おそらく、ジーコ監督のフラメンゴでの現役時代の経験に基づくものだと思われるが。

 だが問題は、現在の日本代表チームには2002年当時と違って欧州でプレーする選手も増え、選手招集の機会に制限があることだ。この点で、来年1月下旬からの合宿がW杯へ向けて大きな意味を持つことになるのは言うまでもない。

 だが、それもアンゴラ戦の後半のプレーを、「中だるみしていた」と中田英寿に指摘されるような状態では、たとえどれだけ時間があっても、効果は薄い。

 この日のミーティングでジーコ監督は、「W杯に何のために行くのか、もう一度考えてほしい」と選手に話したという。

 指揮官の頭の中にあるのは世界最高の舞台での世界王者のタイトル獲得だ。ただ、技術的には実現可能と信じているが、精神的な弱さが、決定力不足も含めて、可能なことも不可能にしていると感じている。

 ジーコ監督は、「W杯へはタイトルを取りに行く。その23人がほしい。精神面を切り替えて、もう一回自分たちが大きな目標とするものについて考えて、来年を迎えてほしい」と選手たちの精神的成長を促す言葉を残した。

 12月9日にはW杯本大会の組み合わせ抽選会が行われ、1次リーグでの対戦相手が判明する。そして、2006年へ。日本代表はW杯イヤーを1月下旬の国内合宿でスタートする。

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