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「脱落者ゼロ」も「最初は行きたくなかった…」全国ベスト4強豪校が“ナゾの自衛隊特訓”…部員150人を抱えるサッカー部監督の狙いは? 

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安藤隆人

安藤隆人Takahito Ando

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posted2025/04/08 11:01

「脱落者ゼロ」も「最初は行きたくなかった…」全国ベスト4強豪校が“ナゾの自衛隊特訓”…部員150人を抱えるサッカー部監督の狙いは?<Number Web> photograph by Takahito Ando

自衛隊の訓練に体験入隊した高川学園高校サッカー部

 新チームで副キャプテンを務める3年生のMF中村誓瑠は、この日を楽しみにしていた。

「部署活動でもそうですが、自分が経験してこなかったことを体験することで学ぶものは必ずあると思っていました。全員が同じ方向を向く、目標に向かってやることが高川学園と似ているし、改めて大事だなと思いました」

 一方で「サッカーと関係ないのになんで行くんだろうと思っていました」と正直な思いを口にしたのは、2年生のFW松任敦だ。

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「でも、実際に訓練を受けてみると、フィジカル面はもちろん、みんなと息を合わせて行動することは集団生活に役に立つなと。それに、サッカーができる日常は当たり前ではない。災害時には自衛隊の人たちが真っ先に被災地に向かう。それを身をもって知ることができたことは大きな財産になりました」

「両親と兄の凄さがわかった」

 両親と兄が元自衛官だった2年生のDF下川幹太も「きついから行きたくないと思っていました」と苦笑い。それでも気づきはあった。実は下川と12歳離れた兄は、現在、中部地方の特別消防救助隊(ハイパーレスキュー)として働いている。選ばれし精鋭のみが許される役職に就く兄に向ける視点が変わったという。

「自衛隊を辞めて転職したんだと思っていましたが、だから兄は家であんなにトレーニングをしていたんだとわかりました。自衛隊の訓練についていくためではなく、さらにその上を見据えて自分を追い込んでいた。兄の凄さと日々の努力、意識の高さをこれまで気づけなかった自分を情けなく思っています」

 こうした変化はトップチームの選手にも大きな刺激を与えた。チームでセンターバックを務め、部署制度では広報部の部長を務める3年・張光航太は「みんなが帰ってきて集団行動をしている姿を見て、“成長”を感じた」と驚きを語る。

「トップに入れたことは嬉しいんですが、僕も(訓練を)経験したかったですね。自衛隊の人たちにも『高川学園を応援したい』と思ってもらえたら、自分たちの認知にもつながる。個人としても、チームとしてもマイナスなことは一つもありません」

【次ページ】 “150人の大所帯”をどう成長させるか

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