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「三振オッケーになっちゃってる」イチローが鳴らした警鐘…MLBで広がる“頭を使わない野球”とは?「現在のアプローチだったら僕、ここにいない」
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笹田幸嗣Koji Sasada
photograph byNaoya Sanuki
posted2025/02/16 17:00

2019年の引退会見で変化する野球に警鐘を鳴らしたイチロー
ネット裏にある記者席の隣室に陣取った彼らの人数はそのときで5人ほど。試合開始から終了まで、視線が向けられていたのは手元のコンピュータのみ。極端な表現をすれば、彼らの視線が1秒たりともフィールドに向けられたことはなかった。彼らの仕事は、選手のプレーを見た上で数字を分析するのではなく、プレーから弾き出された数字を集計することだけなのだ。そこでは試合状況が生みだす選手の心境の変化など、一切加味されていない。
もちろん、分析担当者が導き出すデータは選手にとって有効な一面もある。投手のカウント別配球の傾向は打者を助け、逆に打者のアプローチの傾向もバッテリーの配球を手助けする。だが、データ分析には合理性、数字的根拠がある一方で、選手自身が「考える力」をどんどん奪っているとも言える。
「現在のアプローチだったら僕、ここにいないです」
球場に行ったことがある人ならば、フィールド上の野手が“あんちょこ”に目を落としている姿を見たことがあるだろう。その小さなシートには打者ごとに打球方向の傾向が記され、野手はそのデータ通りのポジションに立つことが求められている。指示通りのプレーは悪い結果となっても許容される一方で、データと違う選手自身の判断によるプレーは結果を伴っても咎められる。さらに、アウトを取ったとしても評価に「マイナスポイント」がつけられるという信じがたいことさえある。“指示通りに動け”というフロントオフィスからの指令は絶対なのだ。イチローさんは嘆く。
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「三振オッケーになっちゃっている。まず、それはすごく残念ですね。なんだっていいからバットに当てればチャンスはあるし、ファウルで逃げるとかね、そういうことができるんですけど。とにかく、少なくとも僕のアプローチとはまったく違う野球です。僕、追い込まれてから甘い球なんか待たないんで。今(の考え方だと)、際どいゾーンをストライクにとられるのは、もう仕方がない。追い込まれてからもストライクゾーンを狭くして、甘いところを待てっていう(指示がある)。そのアプローチだったら僕、ここにいないです。どうやって野球がうまくなるか、相手が嫌がるのか。いろんなタイプの選手がいて、いろんな役があって、それがぶつかり合うから面白いわけですよね。(フロントオフィスの指示通りに動く)ワンパターン同士がぶつかっても、興奮しない」
イチローが考える「プロフェッショナルなプレーヤー」
イチローさんが考える「プロフェッショナルなプレーヤー」とは、「相手が嫌がるプレーを実践できる選手」だという。追い込まれてもバットに当ててファウルで逃げながら安打にできる球を待つ、バットの芯ではなくても野手が守っていないところへ打球を運ぶ、こういったことをできる選手が、今は非常に少ないと嘆く。
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