NumberPREMIER ExBACK NUMBER

「三振オッケーになっちゃってる」イチローが鳴らした警鐘…MLBで広がる“頭を使わない野球”とは?「現在のアプローチだったら僕、ここにいない」

posted2025/02/16 17:00

 
「三振オッケーになっちゃってる」イチローが鳴らした警鐘…MLBで広がる“頭を使わない野球”とは?「現在のアプローチだったら僕、ここにいない」<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

2019年の引退会見で変化する野球に警鐘を鳴らしたイチロー

text by

笹田幸嗣

笹田幸嗣Koji Sasada

PROFILE

photograph by

Naoya Sanuki

 申告敬遠やタイブレーク導入などゲームの根幹に関わる数多くのルール変更。数字的根拠を重視したデータ偏重の流れは、選手の心理を置き去りにする。イチローが危惧し続け、現在も不可逆的に進むメジャー野球の変質とは──。
 発売中のNumber1114号に掲載の《[引退会見で鳴らした警鐘]「頭を使わない野球」の現状とは》より内容を一部抜粋してお届けします。

引退会見での「イチローの警鐘」 

 今から6年近くも前のことになる。

 2019年3月21日。イチローさんは自らの引退会見でメジャーリーグの野球に対し、警鐘を鳴らした。

「2001年に僕がアメリカに来てから、2019年現在の野球はまったく違ったものになってしまった。頭を使わなくてもできてしまう野球になりつつある。野球は頭を使わないとできない競技。危機感を持っている人は結構いると思います」

ADVERTISEMENT

 メジャーの野球は、その後も機構の“お偉いさん”たちによって随分と変えられた。

 ピッチクロックの導入、牽制回数の制限、イニング途中に交代で入った投手は打者3人に投げる(もしくはイニング終了まで投げ切る)、延長タイブレーク、内野手の極端なシフト禁止、ベースの拡大による塁間距離の短縮など、ルール変更は多岐にわたる。それらの狙いは試合時間の短縮だ。近年の「本塁打か三振か」の大味な野球から、スピード野球への転換を目指しているともいわれる。

 ピッチクロックなどが導入された'23年シーズン。試合時間は前年の平均3時間4分から24分短縮し、2時間40分となった。

 また、因果関係があるのかは不明だが、観客動員も平均で9.1%増えた。NFL、NBA、NHLを含めた北米4大スポーツでMLBは唯一試合時間が読めず、長いと指摘され続けてきたが、試合時間短縮が一定の評価を得たともされている。

「見ている人たちの感情が奪われている」

 その一方で、野球というスポーツが持つ本来の魅力を奪ってしまった、という声も確実にある。日本人選手として初の米野球殿堂入りを果たした際、イチローさんは、改めて危機感を募らせた。

「残念なこととしては、見ている人たちの感情が奪われているシーンも多いと思います。感情を表したいのに、例えば申告敬遠で(打者に)投げないで一塁に歩いていくというのは、次のネクストサークルの選手がドキドキしたり、球場全体がザワザワと雰囲気が変わったり、そういう感情がなくなってしまった。そういうこと、いくつか残念なことがあります」

 また、昨今の野球はデータ分析がより重要視されているのは周知の通りだ。

 各球場には計測機器が設置され、球団の分析担当者はフィールド上のデータを収集し続ける。その彼らの仕事を、ある3連戦を通して目にしたことがある。

【次ページ】 「現在のアプローチだったら僕、ここにいないです」

1 2 NEXT
#イチロー

MLBの前後の記事

ページトップ