第101回箱根駅伝(2025)BACK NUMBER
「上りでタイムを稼ぎ、下りは転がり落ちて(笑)」青山学院大学・野村昭夢の驚異的山下りなど、箱根駅伝が記録ラッシュに沸いた理由
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKiichi Matsumoto
posted2025/01/10 10:01
山下りの6区で区間新記録の走りを見せた青山学院大学の野村昭夢
そして2019年に青学大の小野田勇次が久しぶりに57分台に突入すると、2020年に館澤亨次(東海大学)が57分17秒まで記録を伸ばした。
これ以上、記録を縮めることは難しいのではないか……と思われていたが、今回、青学大の野村昭夢(4年)が夢の56分台、56分47秒をマークし、館澤の記録を大幅に更新した。
「4年生になってから56分台をターゲットにしてきました」と野村は話したが、一気に30秒も記録を伸ばせた理由はどこにあったのか。
「まずは、56分台を出すというメンタルは大切かと思います。去年は58分台でしたが、大会の1か月前にインフルエンザに罹ってしまい、100パーセントの状態では臨めなかったんです。おそらく、去年から57分台の力はあったと思うので、その延長線上として56分台を見据えていました」
そしてもうひとつ、重要なのが「上り」だった。
「みなさん、6区は下りに注目すると思いますが、記録を出すためにはスタートしてからの平地、そして上りでタイムを稼ぐ必要があります。館澤さんは5区を担当した経験もあり、上りに苦手意識がなかったはずです。今回は、上りでタイムを稼ぎ、下りは転がり落ちて(笑)。最後の平地はとにかく粘るというプランでした。それを実行できたと思います」
快走を見せただけに、さぞや気持ち良かったと思いきや、「去年よりキツかったです」と苦笑いを浮かべる。
「56分台を出そうと思ったら、1秒たりとも無駄にできません。本当に自分を追い込んだ結果の56分台でした」
今大会での金栗四三杯、そしてMVPのダブル受賞は当然の結果だっただろう。
王者をヒヤリとさせた佐藤圭汰の7区
6区を終え、青学大の独走ムードが漂い始めたところに区間新記録で楔を打ち込んだのが駒澤大学の佐藤圭汰(3年)だった。
今季はケガが続き、最後に公式レースで走ったのは昨年3月の10000mまで遡らなければならない。そんな佐藤の復帰戦となったのが、今回の箱根駅伝7区だった。
青学大と4分07秒差の3位でスタートすると、実戦から遠ざかっていたとは思えない安定感のある走りを見せる。佐藤に追いつかれた中大の岡田開成(1年)は、京都・洛南高校の2学年後輩。岡田がレースの状況を語る。
「佐藤先輩が追い上げてくることは想定していました。実際に5km前後で並ばれました。自分としてはあそこから粘って、18km地点くらいまではついていこうとしたんですが……佐藤先輩に走力の違いを見せつけられました」
佐藤は背中の見えない青学大を淡々と追いかけ、平塚中継所では1分40秒にまでその差を縮めた。久々のレースを終え、佐藤はこう振り返った。
「今後につながる走りはできたかなと思います。今季、レースに出られなかった悔しさを、今年、東京で開かれる世界陸上で晴らしたいですね」
6つの区間新記録には、6人それぞれの思いがある。彼らの快走で、第101回箱根駅伝は記憶にも強く残るレースとなった。
それにしても、これだけ区間新記録が生まれた背景には気象条件が良かったこともあるが、何より全体のレベルが上がっていることは見逃せない。
優勝を狙う大学は、年間を通して「打倒青学大」、箱根駅伝を前に「ストップ國學院大學」を標榜して強化を進めてきた。
上位校だけでなく、シード権を争う大学もまた切磋琢磨している。今回13位となった立教大学の総合タイム10時間58分21秒は、2011年の早稲田大学の総合優勝タイムを上回っている。シューズの進化も見逃せないが、箱根駅伝を目指す各校の努力こそが、ハイスピード駅伝時代の到来をもたらしたのだ。