第101回箱根駅伝出場校紹介BACK NUMBER
〈日本体育大学〉「勘違いをして他責思考に…」自己嫌悪を乗り越えて山崎丞(3年)が獲得したエースたる信頼
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byKiichi Matsumoto
posted2024/12/17 10:00
全日本大学駅伝では2区を走り、区間8位と健闘した山崎
箱根駅伝は山上りの5区で準備していたが、大会前にインフルエンザにかかり、予期せぬ形で欠場。現場にも足を運べなかった。日体大内の隔離された一室で自己嫌悪に陥り、仲間が走る箱根路を呆然と眺めることに。
「俺はいったい何をやっているんだろうって。自分を見つめ直すきっかけになりました。失った信頼を取り戻すには口だけではなく、日頃の生活、練習から変えていかないとダメだと思いました」
地道に走り続けるしかなかった。疲労が溜まったとき、気持ちが乗らないときには、朝練習の前にトラックの脇に立つ記録ボードに必ず目を向けた。そこには10000m、ハーフマラソンの日体大記録を持つOB、池田耀平(現・花王)の名前がある。97回大会の2区で日本人トップの区間3位と快走したレジェンドだ。山崎が入学したときに入れ違いで卒業したが、記録会や実業団の練習参加で顔を合わせるたびに会話を交わすようになり、SNSでメッセージをもらうようになった。
レジェンド池田耀平の教え
「あるとき、耀平さんに言われたんです。『自分のやるべきことに集中しろ。強くなれば、必然的に周りもついてきてくれる』って」
記録ボードの名前を見るたびにエースのあるべき姿を思う。97回大会の2区で創価大学のフィリップ・ムルワ(現・GMO)に一度抜かれながらも、必死に食らいついていった走りは脳裏に焼き付いている。
「ひとりだけ留学生に挑んでいった、あの果敢な走りは衝撃的でした。日体大に入ってから何度も映像を見返しています」
憧れているだけではない。最終学年までには池田の持つ1時間7分14秒の日体大区間記録(2区)を破り、日本人トップの座も狙うつもりだ。「耀平さんを超えたい」とはっきり口にも出している。ただ、心を入れ替えた3年目はまず日本人区間3位以内を視野に入れている。往路で流れをつくり、チームを勢いに乗せるのが、いまの山崎が担うべき役割。総合6位以内の目標を掲げる主将の分須尊紀(4年)からは「山崎、頼むよ」と声を掛けられ、取り戻した信頼をひしひしと感じている。心身とも成長した21歳は地に足をつけ、意気込みを口にする。
「持っている力を最大限に発揮し、日本人上位に食らいついていきたい」
落ち着いた口ぶりにはエースの風格が漂う。自信が過信になることはもうない。