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[休息を制するものがランを制す!]リカバリー最新事情5。

posted2024/09/30 11:00

 
[休息を制するものがランを制す!]リカバリー最新事情5。<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

text by

林田順子

林田順子Junko Hayashida

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Yuki Suenaga

マラソンシーズンが間近に迫り、練習に打ち込む人も多いだろう。だが、ハードワークで怪我をしたら元も子もない。そこで疲れを残さないためのリカバリー最新情報をお届け。練習以上に回復にも気を配ろう。

1 睡眠

睡眠時間を確保しにくい現代人のための快眠テク

 大谷翔平の12時間睡眠が話題となったが、競技を問わず、多くのアスリートが睡眠を重視している。

「海外のサッカーチームやオリンピック選手は、睡眠専門のスリープコーチをつけていることもあるほど、睡眠はパフォーマンスに影響を与えます」と語るのは、広島国際大学健康科学部の田中秀樹教授だ。

「日中の記憶を睡眠で整理・定着させるという話は聞いたことがあるでしょう。ただ、この記憶には脳だけではなく、体の記憶も含まれています」(田中)

 つまり睡眠を疎かにすると、せっかく身につけたパフォーマンスが落ちる要因にもなるのだ。

「一般的には8時間睡眠が良いとされていますが、適正な睡眠の量は、年齢や日中の活動量、脳の疲労など、様々な要因で変わり、人それぞれです。特に筋肉量が多いアスリートは、筋肉の回復などに時間がかかるため、睡眠時間を長くとったほうがパフォーマンスが上がることが分かっていますし、実際、あるバスケットボールチームでは5~7週間、10時間睡眠を取り入れたところダッシュ速度が向上したという実験データもあります。ただ、仕事もされている市民ランナーが睡眠時間を確保するのは難しいですよね。そこで量を質で補うことが重要です」(田中)

 田中教授によると、質を上げるための基本は2つ。深部体温を下げることと、脳の興奮状態を鎮め、リラックスをすることだ。半身浴をする、寝る前にスマホを見ない、夕方以降のカフェインは避ける……。睡眠に良いと言われるこれらはすべて、この2つのための行動だ。ちなみに帰宅ランやナイトランをする人も多いが、これも体温を上げ、脳を興奮させるので、睡眠のことを考えるのであれば避けたいところ。

「とはいえ、夜しか走れないという人は、少なくとも寝る1時間前までには終わらせて、あとはリラックスして過ごすようにしましょう」(田中)

 深部体温を下げるために、便利なのが頭。

「目の奥には太い血管があります。寒い時期は蒸しタオルなどで目を温めると、この血管が拡張し、全身の血の巡りが良くなって、手足からの熱放散を促します。また、暑い日やレース前の興奮で寝られないというときは、額や首筋を保冷剤や冷凍したタオルで冷やすと寝入りが良くなります」(田中)

 また良質な睡眠には寝具も不可欠。

「実は一晩に20回ほど寝返りがある方が、睡眠の質が良いことが分かっています。というのも睡眠中に唯一できる、行動性の体温調節が寝返りだからです。また、寝返りには、日中にかかっていた重力から背骨を解放し、動くことで適切な状態に戻すリセットの役割もあります。つまり体を回復させるには、寝返りをうちやすい、硬さのあるマットレスや、適正な高さの枕を選ぶことも大切です」(田中)

 睡眠の質を上げることが、パフォーマンスを上げる一つの近道になるのだ。

田中 秀樹HIDEKI TANAKA

1965年9月4日生、山口県出身。広島国際大学健康科学部学部長。睡眠学、精神生理学、健康心理学、不眠の認知行動療法を専門とし、幅広い知見から睡眠関連の商品開発などにも携わる。

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