炎の一筆入魂BACK NUMBER
《鉄壁の二遊間》カープの名手・菊池涼介が認めた遊撃手・矢野雅哉の進化を支える「攻めの守備」と「失敗からの学び」
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PRESS
posted2024/07/29 11:00
異次元とも言える守備力で二遊間を固める矢野(左)と菊池。ディフェンスを重視する今季のカープの象徴的存在でもある
そんな矢野は菊池の目にどう映っているのか──。
「細かいところ(の課題)はまだまだいっぱいある。でもみんなが見てすごいと思うように、肩は強いし、僕の4年目よりははるかにいい。矢野は考える余裕がある分、伸びしろがたくさんある」
2人は1月の合同自主トレをともにする師弟関係にある。矢野は守備への意識、ポジショニング、観察眼の重要性などの教えを受けてきた。そして今季は2人で二遊間を組み、投手を中心に守りを固める広島野球を支えている。高い守備意識を持つ2人だからこそ、記録に残らないミスも共有できている。
5月21日の阪神戦。1回無死一塁から中野拓夢の二遊間への強い打球に矢野が飛び込み、二塁へトスを送った。一塁走者の近本光司を封殺。菊池の一塁への転送は間に合わなかったものの、得点圏進塁を阻止した好守にスタンドから拍手が送られた。だが、地元ファンの盛り上がりと対照的に、二遊間の2人の表情はうかなかった。
「あれはゲッツーを取れたし、取らないといけない打球だった」
試合後そう振り返った菊池の要求に矢野もうなずく。打球に反応した時点で、矢野も併殺を狙っていた。
「あれは僕のミスです。ゲッツーが取れた打球。トスが浮いてしまった」
ミスから得られるもの
右手に持ち替えたトスの精度を悔やんでいた。「E」ランプがともる失策を恐れず、「E」ランプがともらないミスにも向き合う。守備でミスをすれば、映像を見返して練習に臨む大学時代からの習慣は今も続く。各打者の打球の傾向や質を予測するための経験値は試合に出続けなければ得られない。
「技術はあまり変わっていないと思うんです。でも自分でいろいろと考えることで、判断のバリエーションが増えて、守備範囲も広がっている。ベンチで見ているのと、実際に守るのとでは全然違う。今までにない打球を受けられているし、前の反省を生かして守れる。攻めていかないと感じられないものなので、守りに入る考えはまったくないですね」(矢野)
昨季までの3年間、スタメン出場は53試合だったが、今季は前半戦だけで69試合と過去の自分を超えた。守備力でレギュラーの道を切り拓いた自負もあるだろう。失敗との向き合い方で人は成長できる。矢野がグラウンドで、それを証明している。