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《鉄壁の二遊間》カープの名手・菊池涼介が認めた遊撃手・矢野雅哉の進化を支える「攻めの守備」と「失敗からの学び」

posted2024/07/29 11:00

 
《鉄壁の二遊間》カープの名手・菊池涼介が認めた遊撃手・矢野雅哉の進化を支える「攻めの守備」と「失敗からの学び」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

異次元とも言える守備力で二遊間を固める矢野(左)と菊池。ディフェンスを重視する今季のカープの象徴的存在でもある

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前原淳

前原淳Jun Maehara

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「失敗は成功のもと」と言われても、できることなら失敗はしたくない。一般社会だけでなく、個人成績が尺度となるプロ野球の世界ではなおさらだ。レギュラー取りのチャンスを手にした若手なら、より一層そう思うに違いない。それをわかっていてなお「失敗を恐れてはならぬ」と若手の背中を押すのは、2022年まで二塁手では最長の10年連続ゴールデン・グラブ賞を受賞し、今なお堅守を誇る広島の菊池涼介だ。

「守備で失敗しないというのは難しい。その失敗の仕方が、すごく大事。失敗するなら攻めた結果のほうが絶対いい。でも、若い選手は“エラーをしないように”守っているように見えるときがある。待って、待っての消極的な守備だと次につながらないし、投手にも申し訳ない。攻めた結果だからこそ、あそこはこうした方が良かったと反省点が出てくる」

 たとえば内野手が緩く高く跳ねた打球にチャージをかけて弾けば「E」ランプがともる。待って取れば内野安打となる。結果的にはどちらも一塁に走者を置くことになるが、目先の成績を意識すれば、打球へ向かう一歩は確実に遅れる。

 菊池は攻めて、ミスをして、守備力を磨いてきた。レギュラーをつかんだ2年目の13年、失策数は19(二塁で18、遊撃で1)を数えた。その後も12失策、10失策しながら新たな二塁手像をつくり上げ、20年には守備率10割を記録した。球史に残る名手だからこそ、その言葉にも説得力が増す。

名手が認める成長株

 あの頃の菊池の姿に重なる選手が広島に現れた。

 矢野雅哉。ポジションは二塁手ではなく、遊撃手。三遊間の深い当たりでも矢のような送球で打者走者を刺す強肩。的確な打球予測に素早い反応が加わって可能となる広い守備範囲。今季もここまで9失策(遊撃6、二塁3。7月27日時点)を記録しながらも、失策数を補ってあまりあるスケールの大きな守備を見せている。

 育英高から亜細亜大を経て、20年のドラフト6位で広島に入団した。新井体制となった3年目の昨季、ようやく一軍に定着。役割は守備固めと代走が主だったが、投高打低の傾向が見られる今季は守備力を武器とする矢野に追い風が吹いた。課題の打力の成長もあって侍ジャパンに選出された小園海斗を三塁に追いやり、遊撃を守り続けている。すでに規定打席をクリアし、シーズン打席数やシーズン塁打はキャリアハイ。遊撃での守備率.982はリーグトップだ。

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