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野球善哉BACK NUMBER
「丸刈り完全否定」の違和感…甲子園の慶応報道に「なぜあんな形で取り上げられたのか」花咲徳栄の名将が本音“昔の高校野球は消滅”でいいのか?
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2024/06/22 11:00
花咲徳栄・岩井隆監督が語る「丸刈り論争への本音」(写真は今春センバツを制した健大高崎)
「甲子園で勝つ監督」とは?
岩井もその一人である。語られる言葉から、「甲子園で勝つ監督」とは「教育の従事者」に近いことを感じさせた。
「『甲子園には魔物がいる』とよく言われますよね。それは球場の雰囲気とか歓声のことを表わすんですが、甲子園での試合というのは2時間以内に終わらなきゃいけない教育現場なんですよ。そのためには『抗議をしない』『ラフプレーをしない』『正々堂々』が必要とされる。2時間以内に事故がなく、審判には絶対服従で、1試合が消化される。その中で勝敗がつく。そういうことを熟知したチームだから(2017年のチームは)優勝できた。審判の匙加減で急に試合展開が早くなってしまったりすることもあるんですけど、絶対に文句を言っちゃいけない。そういうことも選手に話をしています。もちろん、それが正しいかどうか、という話ではありません」
つまり、甲子園とは授業である。岩井はさらにこう続ける。
「審判が先生。4人いて真ん中の人が体育主任。では、その人に文句を言いますか。授業の中で、態度に出しますか。唾を吐きますかっていうことです。あんなに(試合時間を)急かされたら全部出し切れない……ではなくて、甲子園のルール、2時間の中で出し切るっていうことを教えていかなきゃいけない。甲子園は型を教えるところ」
甲子園常連校の多くには「甲子園タイム」というのが存在する。岩井が言うように、2時間以内で試合を決着させることを「教育」とされているため、すべての行動が速い。ベンチ入り、整列、スタンドへの挨拶、シートノック。それら全てがルーティン化している。それが、岩井の言うところの「型」なのだろう。
「昔は焦りがあった」
現在も全国的に、丸刈りと髪型自由の高校の比率は甲子園では圧倒的に前者が多いが、地方大会においては逆転現象が起きている。これは甲子園に出場している多くの高校が甲子園とは教育だと認識していることも関係しているのかもしれない。
ただ岩井は、時代がそうした教育を選んできたことも理解している。
「昔は焦りがあった。戦後の日本は早く世に出るように教育していましたが、今は違う。15歳で世に出なきゃいけなかった時代が18歳になって、22歳になって、最近は22歳でもまだ出なくてもいい。いろんな職種を経験できるじゃないですか。だから高校野球もそうなっている。最高レベルに高校3年時で到達しなくていい。大学に行って150キロを投げて、ドラフト1位になる子はいるわけですからね」
そんな岩井には今、ひとつ心境の変化があると言う。大阪桐蔭の西谷浩一、創志学園の門馬敬治ら高校野球監督の“黄金世代”生まれの一人として語る「迷いの正体」とは。
〈つづく〉