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我が子を抱いてピッチへ「ごめん! 仕事なんだ!」元なでしこがママのスイッチを切った“職場復帰”ウラ側「ギャン泣きを聞きながら…」
text by
岩清水梓Azusa Iwashimizu
photograph byMiki Sano
posted2024/06/08 06:03
なでしこジャパンやベレーザの名DF岩清水梓。息子の聖悟くんとピッチで嬉しそうな表情を浮かべる
産後初めて途中出場でピッチに立った試合後、リーグはウインターブレイクにより中断し、再開の初戦は年をまたいだ3月5日だった。ちょうどその2日前は、息子の2歳の誕生日。2本のロウソクが立ったケーキの前で笑う息子を見ながら、明後日、一緒に選手入場できたら最高だな……そう思っていた。
スタメンを勝ち取るのは産後の大きな目標だった
息子と一緒に選手入場するということは、先発メンバーで試合に出るということ。それは、ただ現場復帰するだけでなく、チーム内競争でスタメンを勝ち取って初めて叶うことで、そう簡単ではない。だから、産後の私にとって、それは大きな目標の一つだった。
試合の前日、監督からスタートのメンバーであることを伝えられた。
それを聞いたときはうれしさと、責任感とで、なんとも言えない感情になった。ついに、スタメンとしてピッチに立つ。そして──夢見ていた息子との選手入場が実現する。
試合当日には、会場にWEリーグでは初めて、選手のための託児所が開設された。ベレーザのスポンサーに保育施設を運営している企業があり、そこが全面協力してくれたおかげで、ロッカールームの隣にはおもちゃが置かれ、マットが敷かれたかわいらしい部屋が出現していた。
時間になると、大きなかけ声とともにロッカールームから選手たちが入場ゲートへと向かった。私もユニフォームをまとい、選手の整列の最後尾につくと、竹中さんから連れてこられた息子を引き取り、抱きかかえた。
我が子を抱っこしての入場…涙は出なかった
その日は快晴だった。
入場のアンセムが鳴ると、前の選手たちに続いて、私は青空と歓声のなかへ、息子とともに大きく足を踏み出した。見えた景色が眩しすぎて、さすがに込みあげるものがあった。
「あぁ、本当に抱っこして、一緒に入場できるんだ!」
なにがなんだかわからない息子は、私の腕のなかでキョロキョロしている。その様子を見て、「想像していたよりだいぶ大きくなっちゃったな」と思わず笑ってしまった。
ただ、自分でも驚いたのは、念願だった抱っこしての入場に、私は感極まって泣いてしまうだろうな、と思っていたのだけれど、まったく涙が出なかったことだ。