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「お腹にだけはボールを当てないで!」妊娠発覚もサッカーを…なでしこW杯優勝メンバー岩清水梓はなぜ引退撤回したか「非難されても仕方がない」
posted2024/06/08 06:00
text by
岩清水梓Azusa Iwashimizu
photograph by
Lars Baron-FIFA/Getty Images
正直に打ち明けると、実は妊娠が発覚してから1カ月弱ほど、公式戦に出場していた。もちろん、クラブには内緒にしたまま。普通に考えたら、恐ろしいと思われても仕方がない。とんでもないことだと、非難されても仕方がないと思う。でも、そうでなければ、あのときの私にはどうしても区切りがつけられなかった。
夫に相談をすると、私が決めたことだから、と
自分のサッカーに対するモチベーションが薄れつつあるなかで、それでもチームの力になりたいという気持ちと、いっそのことやめてしまおうかという気持ち、だけど、自分ではどちらとも決められない情けなさやもどかしさで、ずっと心がさまよっていた。
そんなときにわかった妊娠。そのときは、「これで引退する理由ができた」とも思っていたが、一方で、これだけ長くお世話になったクラブやチームメイトに対して、これではあまりに無責任な幕引きになってしまう、という思いもあった。いくらそれまで去就について悩んでいたとはいえ、結果、計画的ではないことに変わりはない。自分が人生をかけてきたサッカーの終わらせ方を、妊娠がわかったからと、周りの迷惑も考えずにすぐに打ち切る形で、果たしていいのか。
考えて、考えて出した結論は、当時行われていたカップ戦には最後まで責任を持って出場し、勝って優勝で終えることがせめてもの務めだ、ということだった。
夫に相談をすると、私が決めたことだから、と反対することはなかった。まだ妊娠がわかったばかりで、一番初期の安静にしていなければいけない時期に、私はサッカーの試合に出ようとしている。本来ならば、夫にとっても初めての子どもだし、無事に産まれてくるように、大人しくしていてほしいと思うのが普通だ。でも、夫は私が悩んでいたことも、そしてサッカーが私にとってどれだけ重要で大切なものなのかも、よくわかっていた。
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もし、この後カップ戦で決勝まで勝ち進めば、最大でもまだ3試合が残っている。その間はもちろん練習も毎日ある。それでも夫は、絶対に仕事の区切りというのは大事なことだと思うから、と私の気持ちを尊重してくれた。