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「有望な中学生に断られ続けた」“時代遅れ”になった名門校…帝京高サッカー部“異色の指導者”が再建に挑んだ話「縁故採用をストップした」 

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木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

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posted2024/06/03 17:06

「有望な中学生に断られ続けた」“時代遅れ”になった名門校…帝京高サッカー部“異色の指導者”が再建に挑んだ話「縁故採用をストップした」<Number Web> photograph by KYODO

1992年の高校選手権決勝。両校優勝後の帝京高、四日市中央工高のイレブン。帝京高キャプテンは日比威だった

 当時の帝京は中学年代の有望な選手を誘っても、なかなか来てもらえず苦労していた。そこで日比は「なぜ他校の方が魅力的だったんですか?」とヒアリングを実施。浮かび上がってきたのは所属リーグの格だった。

「2011年に高円宮プレミアリーグが創立され、プレミアリーグ、プリンスリーグ、都リーグというヒエラルキーができ、当時の帝京は都リーグにいました。うちの誘いを断った中学生に聞くと『プレミアやプリンスでプレーしたいんです』という答えが返ってきた。

 選手を集めるには、少なくともプリンスリーグに昇格しなければならない。フィジカルに頼って短期的にトーナメントを勝ち上がるサッカーではなく、内容で上回って長期的にリーグを勝ち抜くサッカースタイルにしようと考えました」

 日比が選んだのは中学年代にプレーした読売クラブのスタイルだった。闇雲にロングボールを蹴らず、パスをつないでじわじわゴールに迫っていくサッカーだ。

 選択は間違っていなかった。2019年1月、帝京はプリンスリーグ関東への昇格を果たし、有望な選手が集まりやすくなった。

「今年1月のタイ戦で日本代表に選ばれた三浦颯太は、まさにその転換期にいた選手でした。三浦が高3のときにプリンスリーグへ昇格しました」

「全体練習を90分に限定した」

 もちろん攻撃的なスタイルを実現するには、理論的な指導が必要だ。

 日比は言語化に長けており、攻守において何をすべきかを具体的に伝えることができる。たとえば「縦方向をのぞいて相手を騙してからパスを出そう」、「相手がボールをうまくトラップしたときに、ディフェンスは突っ込んでしまうとかわされるよ。止まろう」という感じだ。

 全体の練習時間もあえて90分のみ、選手の「もっとやりたい」という気持ちが自然に湧き上がるようにした。

「サッカーって頭を使う競技ですからね。強制的に長時間やらせても意味がない。単に走るだけの練習もほぼしません。走るための夏合宿も廃止しました。その費用でサッカーフェスティバルへ行って実戦を積んだ方が、はるかに選手が伸びますから」

 ただし同時に、答えを出しすぎないことも心がけている。

「答えを示しすぎると、今の子供たちは思考を止めてしまう。たとえば何々をやって欲しいと伝えると、それしかやらなくなる。でもサッカーはセオリーや確率論がある一方で、個人のアイデアがそれらを覆すからおもしろいんです。答えを押し付けないようにしています」

「先生や親の言葉の20%くらいしか信じない」

 頭ごなしに言わないのも大切だ。

「昭和と令和の大きな違いは子供たちの情報量。昔は先生が言っていること、親が言っていることは100%正しいと多くの子供が思っていた。でも今は情報をインターネットから得て、先生や親の言うことの20%くらいしか信じていないんじゃないかな。そういう中で頭ごなしに言ったら、余計に言葉が響かないでしょう」

【次ページ】 「走り」の朝練を始めた理由

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