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「注目されてつらい思いを…でも」ドルーリー朱瑛里をめぐる過熱報道に思うこと…異様な雰囲気だった全国女子駅伝、記者発表の舞台ウラ
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byJIJI PRESS
posted2024/01/18 17:06
全国女子駅伝のレース後に取材に応じたドルーリー朱瑛里(岡山県代表/津山高校)
「昨年のこの大会で注目をされて、SNSやメディア報道などで大変な思いやつらい思いをしてきました。でも身近な人や岡山県の陸上関係者の方々のおかげで競技に集中できる環境を作ってもらえました」
短い言葉だったが、彼女がどんなに傷つき、周囲の人たちが全力で彼女を守ろうとしてきたかが窺えた。緊張したやりとりが続く中で、笑みが出たのは、憧れで目標にする田中希実選手の話題が出た時だ。
「レベルが高い選手と同じ区間を走れるのは楽しみで、ワクワクしています」
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レースでは田中選手が20位で襷を受け取ったため、27位でスタートしたドルーリー選手と並走する機会はなかったが、レース後に話したり、写真を撮る機会があったという。
「(田中選手は)憧れで目標の選手。走りもとても格好良い。それにトップ選手は自分のことだけではなく、他の選手への気配りもできる。自分も見習いたいです」
その田中選手は「私が中学生の時に区間賞を取った時はドルーリーさんほど注目されませんでした。メディアによる取り上げ方が私の時よりしんどいと思います。(大変だと思うが)伸び伸びと陸上を楽しいと思いながら、長く続けてほしいです」と後輩を気遣いつつ、囲んでいた報道陣に対してさりげなく釘を刺したように感じた。
ちなみに京都陸協の広報部のスタッフは普段は地元の中学校などで教鞭をとる先生たちで、普段接している生徒と同じ年頃のドルーリー選手が、過剰な過熱報道により傷ついたことにとても心を痛めていた。
「楽しかったな、またこの大会に出たいな、と良い思い出をもって帰郷してもらいたいんです」と広報部のスタッフは話していたが、ドルーリー選手が田中選手やほかの選手と交流し、励まされ「楽しい思い出」を作れたことに安堵しているのではないだろうか。
レース当日、フィニッシュ付近のスタンドに岡山のチームメイトたちと一緒にいるドルーリー選手の姿があった。アンカーの立迫志穂選手が戻ってくるのをワクワクした表情で待ち構えていた。競技場に入ろうとした彼女たちは係員に注意されると、「怒られちゃった」というような表情を見せ、指示された場所に笑顔で駆けて行った。
ドルーリー選手が楽しく、闊達にいられる場所を我々が奪う権利はない。
彼女に限った話ではない。話題性があるから、アクセスが増えるからという理由でメディアが選手を追いかけ回すのは以前から問題になっている。SNSの普及により、何気ない発信が選手たちを苦しめることもある。
どうして取材するのか、何を伝えたいのか。自身も含めてメディアに携わる人間は、もう一度考え直す必要があるように思う。