第100回箱根駅伝(2024)BACK NUMBER
“一強”駒澤大学を打ち破った青山学院大学の自信の源は? 登録メンバー以外・卒業生含めて培ったチーム力〈第100回箱根駅伝〉
posted2024/01/12 10:00
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Nanae Suzuki
第100回箱根駅伝は、青山学院大学の総合優勝で幕を下ろした。
レースを振り返ってみると、1区では大本命・駒澤大学が先頭でたすきをつなぎ、「駒大強し」を印象づけた。
このまま逃げ切るのではないか――という予感を感じさせたが、3区で青学大が駒大に並んだ。そして揺さぶり、抜いた。
青学大に総合優勝を引き寄せたのは、この3区の太田蒼生(3年)の走りだった。相手は10000m現役日本人学生最速のタイムを持つ駒大の佐藤圭汰(2年)。しかし、気持ちの面でまったく負けていなかった。太田はいう。
「40秒差でも追いつけると思っていました。2区の黒田(朝日)が22秒差でたすきをもってきてくれたので、追いつき、なんなら差をつけられるかなと」
この太田の強心臓が、レースの流れを変えた。
駒大は前回の箱根駅伝の4区から、出雲駅伝、全日本大学駅伝とずっと首位を走り、「駒大を逃がしてしまっては、追いつけない」というプレッシャーを他校に与えてきた。そして箱根駅伝でも1区、2区とトップ。誰もが駒大の流れだと思っていた。
しかし、3年生の太田はマインドセットが違った。追いかけることに喜びがあり、そして揺さぶりをかけながら駒大から4秒のリードを奪った。青学大のメンバーたちは、4区の佐藤一世(4年)がさらに差を広げた時点で、総合優勝を確信したという。
「卒業生たちが残してきた膨大なデータがあります」
青学大の選手たちのこうした自信は、どこから来るのだろうか。
原晋監督はこう話す。
「この10年間で7度の総合優勝をすることができました。青学大には卒業生たちが残してきた膨大なデータがあります。練習の達成度、そして11月下旬の段階ではこの仕上がり、12月上旬の最終合宿の時期には、ここまで追い込むといった指標があります。今回、スピードを持つ駒大さんとの競い合いの中で、青学大として培ってきた“青学メソッド”が生きたと思います」
終わってみれば10区間の半分、5区間で区間賞を獲得。往路のエース級の選手だけでなく、復路を担当する中間層の選手たちの強さが光り、大会新記録となる10時間41分25秒のタイムが出た。
また、最終的にはチーム力がモノをいったことも忘れてはならない。志貴勇斗主将は登録メンバーに入ることはできなかったが、レース5日前に、主将のアイデアで学生ミーティングを開いたという。
駒大がレベルを引き上げ、各大学も追いつき追い越そうと
「例年、青学大では学年ミーティングが重視されるんですが、今季のチームは4年生の実績が少なかったこともあり、学年の垣根なくチーム運営に参加して欲しかったんです。みんなで、前に進めていくイメージです。その方が箱根駅伝に向けて、いい準備ができるかと思ったので」
志貴主将は、全員を前にしてこう話したという。
「走りで引っ張れなくて、申し訳ない」
主将の率直な思いは、下級生の心を揺さぶった。最後の最後、青学大は気持ちの面でも準備ができていた。
一方、2位の駒大も10時間48分00秒。前回の優勝記録は10時間47分11秒と、ほとんど遜色がないタイムだった。
今季を振り返ってみると、出雲駅伝、全日本大学駅伝の優勝だけでなく、11月には佐藤圭汰が27分28秒50の10000mのU20日本記録をマークするなど、学生長距離界をリードしてきたことを忘れてはならない。
駒大がレベルを引き上げてきたことで、各大学も追いつき、追い越そうと強化を図ってきた。その意味で、駒大は2023年度の学生長距離界のリーダーだったといえるのではないだろうか。
3位・城西大は学生三大駅伝で最高順位をマーク
そのほかの学校に目を向けてみると、3位に入った城西大学は今季は出雲駅伝3位、全日本大学駅伝5位と、学生三大駅伝で最高順位をマークした。
特に5区で区間新記録を樹立し、金栗四三杯を受賞した4年生の山本唯翔の好走が光った。山本は最後の箱根駅伝をこう振り返った。
「山の神にはなれませんでしたが、みなさんの記憶に残る走りができたと思います。神になれなかった悔しさよりは、自分の走りをして区間新記録を打ち立てたことがうれしかったです」
山本だけではなく、城西大は4年生の活躍が光った。1区の野村颯斗が区間3位でリズムを作り、4区の山中秀真が区間5位でまとめるなど、4年をかけて箱根駅伝で結果を残すまでになった。櫛部静二監督が丹念に学生を育て、強豪チームを作り上げてきたことが分かる。
また、レース前は「シード権獲得に黄信号」と言われていた東洋大学が4位に入ったのが目をひいた。酒井俊幸監督は、
「3位の城西大さんの背中が見えていたので、4位は悔しい結果ですね。それでも、これだけの練習を積めば、上位に入れるということを部員が理解したと思います。その意味では、大きな4位でした。それでも、やっぱり悔しいですけど」
と語り、復活の手ごたえを感じていた。