Sports Graphic NumberBACK NUMBER

「パリ五輪ではすべてを懸けてメダルを獲りたい」ケイリン日本代表・男子の“怪物”太田海也と女子の“エース”佐藤水菜の決意

posted2023/12/21 10:30

 
「パリ五輪ではすべてを懸けてメダルを獲りたい」ケイリン日本代表・男子の“怪物”太田海也と女子の“エース”佐藤水菜の決意<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

ケイリン日本代表の太田海也(右)と佐藤水菜

text by

石井宏美

石井宏美Hiromi Ishii

PROFILE

photograph by

Kiichi Matsumoto

日本発祥スポーツの威信を背負って世界と戦い続ける男子の“怪物”と女子の“エース”。両者が歩んできたここまでのキャリアは違えど、目指す大舞台への強い思いは変わらない。

 2024年7月26日に開幕するパリ五輪が近づいてきた。現地では大会の準備が着々と進む中、各競技で代表争いが激化している。自転車トラック競技は、2024年4月14日までが出場枠獲得のための選考期間となる。2021年、2022年と2年連続世界選手権女子ケイリンで銀メダルを獲得し、国内でも圧巻の強さを見せる佐藤水菜、今年のネーションズカップで4回表彰台に上がった太田海也。パリでもメダル獲得の期待が高まる2人に大舞台への思いを聞いた。

 パリ五輪出場権をかけた選考レース、2023年の初戦となった2月のネーションズカップ第1戦では国際大会初の金メダルを獲得すると、続く第2戦も制覇。さらに5月の全日本選手権トラックでは個人三冠、6月のアジア選手権トラックはケイリンで優勝するなど、ナショナルチーム女子のエース・佐藤水菜は圧倒的な存在感を放っている。

「素直に自分の力をぶつけたいと思って挑めていました。ここで仕掛けたら最後まで脚がもつのかなと考えて走るのではなく、とにかく全力を出し切らないと戦えない、いいレースができないと思って臨めていた。攻めのレースができていました」

 だが、ケイリンで2年連続銀メダルを獲得していた8月の世界選手権では、同種目を2年連続制していたリー ソフィー・フリードリッヒ(ドイツ)やマチルド・グロ(フランス)、東京五輪女子スプリント覇者のケルシー・ミッチェル(カナダ)ら強者が揃った準々決勝で5位降格し、早々に敗退。スプリントでも2回戦敗退という不本意な結果に終わった。

「もちろん絶対に(金メダルを)獲りたいと思っていましたし、負けたくなかった。でも、今年はうまくいきすぎていて、上を見ずに下を向いて走っていたような気がします。少し怖気づいていたというか。いつもの私なら攻めの走りができていたのに、受け身の姿勢だったと思います。すべては自分の弱い気持ちがこういう結果に繋がってしまった」

「初めて背中を追いたいと、憧れを抱いた」という存在

 帰国後、8月中旬のオールスター競輪のガールズドリームレースでも「勝ちにこだわりすぎて消極的なレースをして、何もできないまま包まれて終わってしまった」と口をついて出てくるのは、反省ばかりだ。

 ただ、この2つのレースは佐藤に大事なことを気づかせてくれた。「初めて背中を追いたいと、憧れを抱いた」という世界選手権女子ケイリン女王のエレセ・アンドリューズ(ニュージーランド)の戦う姿勢からは、自分自身に意識をフォーカスする大切さをあらためて学んだ。

「この距離は持たないだろうというところからでも勝負を仕掛けるし、走れてしまう。絶対に不利だと思われる場面でも彼女は絶対に諦めないし、勝ちにもっていくんです。もちろん、負けることもありますが、それでも次のレースでは取り返していて。アンドリューズ選手の姿勢に今の自分に足りないものが見えましたね。負けることにビビっていたら彼女のようなレースはできない。だから攻めの姿勢を貫こう、負けたらその時、またトレーニングをし直せばいいというくらい、気持ちが吹っ切れたんです」

「攻める気持ちが良い結果を生むことをあらためて実感」

 2020年夏にパリ五輪を見据えたナショナルチームに加わって3年。誰もが夢見る大舞台は佐藤にとってもまた特別な場所だ。

「4年に一度なので、マジで怖気づきそうだなと思っていましたが(笑)、ある意味、2023年の世界選手権でいろいろ経験できたことが生きてくると思います。まずは(代表)枠を取ることが最優先ですが、その後は日本人のなかで選考があります。誰かの分まで走るという思いは他の大会にはないもの。だからこそ、より強い気持ちで、攻めの姿勢で走らないといけない」

 2023年9月のアジア競技大会ではターゲットにしていたハロン(助走付きの200mタイムトライアル)で日本記録を更新した(11月のジャパントラックカップで10秒563をたたき出し、再度更新)。

「アジア大会では走り方も手応えを感じられて、直後の松戸(オールガールズクラシック)では怖いものなしで走れました。攻める気持ちが良い結果を生むことをあらためて実感できたレースでした」

 メダルを期待される4年に一度の祭典でも佐藤は“攻め”の姿勢をとことん貫く。

【次ページ】 驚異的な成長を続ける男はメダル獲得のみを目指す

1 2 NEXT

ページトップ