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“阪神ファンが知らない”岡田彰布66歳の青春期「京都で飲んでたら大阪から岡田が」「ここで湯浅か…」“情と非情采配”の源を大学恩師・戦友が語る
text by
清水岳志Takeshi Shimizu
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/12/06 11:00
阪神タイガースを日本一に導いた岡田彰布監督。“意外と知らない”大学時代の秘話を恩師・先輩や同期、後輩に語ってもらった
「石山さんが来てるから、そこでシャドーピッチングか何かやってアピールしろ、と言ったんです」
ピッチングやティーバッティングができるブルペンが寮の横にあって、マットめがけてボールを投げて音をさせると、石山が台所の窓から〈関口、よくやっとるな〉と声をかけてくれた。
「その夜のことが功を奏したかはわかりませんが、メンバーに選ばれた。僕は当落線上にいて、岡田には行きたいなと常々、言ってましたから。そういうところが気が付く男なんです」
岡田の気配りは日々の観察力からくる。それは今の采配にも通じるものがある。
その象徴が、6月に佐藤輝明を二軍に落とす荒療治を行ったことだ。DeNA戦で2三振を喫した翌日の試合で、岡田はスタメンから外した。その日の佐藤輝は試合前ノックを受けず、代打に備えてバットを振ることもなく、ロッカールームでテレビ観戦していただけだったという。他の選手は試合に出ていなくてもベンチの前列で声援を送っていた一方で――佐藤輝は即、ファーム送りになった。
それでも落とされた理由を、佐藤輝自身が見つけないと意味がない。岡田は直接、声をかけていない。平田勝男ヘッドコーチが「プレー以外のところも見られているぞ」と遠回しに伝えただけだった。それでも何かに気づいたであろう佐藤輝は最短の10日で呼び戻された。“非情”に見えた岡田の“情”は佐藤輝に届いたのだろう。
「ここで湯浅か……って、しびれました」
関口は控え選手の言動にも、岡田采配が垣間見えるという。
「岡田はふてくされたり、モチベーションが下がる行動を嫌う。スタメンではない糸原(健斗)、原口(文仁)、小幡(竜平)、島田(海吏)といったメンバーがベンチの一番前で声を出したり、選手を迎えたりしてる。強いチームの証拠だし、これこそ、監督の作戦以外の采配の部分です」
日本シリーズで圧巻だった采配と言えば第4戦、湯浅京己のリリーフ投入である。湯浅にとって一軍で6月以来の登板ながら、3対3の8回表2死一、三塁からマウンドに立つと、一球でピンチを脱して甲子園の空気を一変させた。フェニックスリーグでの湯浅の好投を見極め、シリーズのどこかで起用しようと腹を決めた岡田の観察力抜きに語れない。さらに、6月の登板はオリックス戦で、手痛い逆転ホームランを許したマウンドだった。リベンジせよ、という情けがあった。
「ここで湯浅か……って、凄みのある采配でしびれました」
関口は社会人の住友金属加島で4年間、監督を経験している。だからこそ岡田の胆力に舌を巻いたのだった。
中野・藤本のコンバート成功と、球児の配置転換
配置転換という意味で大成功したのが、今季から二塁手になった中野のコンバートである。